◆地域自給圏
来年度から動き出していく第7次小田原市総合計画に向け、まず新しい基本構想の行政案について市民の皆さんからご意見を頂くパブリックコメントを実施しています。行政案の中では将来都市像として「誰もが笑顔で暮らせる、愛すべきふるさと小田原」を掲げ、具体的に目指すべき持続可能な地域社会の姿を「地域自給圏」と表現しています。この言葉、おそらく多くの皆さんにはなじみのないものだと思います。
私は、私たちのいのちや暮らしを支えるために必要な要素は、できる限り足元の地域において賄えるようにすることが、この地域を確かな未来へとつなげていく上で何より重要と考えています。清浄な空気や水はもとより、健やかないのちを養う食、暮らしや経済に欠かせない安全なエネルギー、住まいを造る素材と技、日常生活を支えるものづくり、健康を守る医療、支え合うケア、基礎的な社会単位である地域コミュニティ、未来を担う人をしっかりと育てる教育。これらの要素を地域で確保している姿を、私は「いのちを守り育てる地域自給圏」と呼んでいます。
この考え方を教えてくれたのは、山形県南部の置賜(おきたま)地方で既に立ち上がっている「置賜自給圏構想」の存在です。江戸時代に日本を旅したイギリスのイザベラ・バード女史は、その記録「日本奥地紀行」に「東洋のアルカディア(桃源郷)」として、美しい田園と物産、そして人々の心の豊かさ・優しさを讃(たた)えています。都市に依存するのではなく、地方に住む自分たちが郷土の豊かさを誇りとし、十分な食、ものづくり、それを支える自然環境、人々の支え合いと分かち合い、それらを大切にする文化を育てていこうとする理念です。日本各地には、こうした動きの兆しが見え始めており、静かな、しかし確かな潮流となっていくと私は見ています。
翻って、箱根外輪山、丹沢山塊、曽我丘陵に抱かれ、酒匂川などの河川によって育まれた肥沃(ひよく)な田園を擁し、気候温暖で資源豊かな故に古(いにしえ)より多彩な文化やなりわいが栄えてきた、小田原を中心とする酒匂川流域。ここを一つの自立した生活経済圏、文化圏として、その豊かさを磨き上げていけば、未来に向けて真に安心な地域社会、循環型の持続可能な地域圏ができる、そしてそれが日本の未来を照らすことになると、私は確信しています。
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