◆知り合い0(ゼロ)のまちでの出店
◇ブーランジェリーエイハブ(紅谷町16-7)
クジラのマークが目印のパン屋「ブーランジェリーエイハブ」。平塚駅西口近くの小さな店内に、さまざまなパンがずらりと並ぶ。甘い系から食事系までそろっていて、どれも店主の一林正吾さんのこだわりが詰まっている。特にハード系のパンの人気が高い。常連だと言う女性は「食事系のキューバサンドイッチは絶対買っちゃう。どのパンも生地が本当においしいの。食パンもおすすめ!」と笑顔で語る。
・補助金が出店を後押し
一林さんはパン職人として働いて9年目になる。平塚で開業する前は、海外や東京都内の3・4店舗での経験を積んできた。パン職人として働き始めた頃から、店を持つことを見据え、自分に合う経営規模を考えるなど、準備を進めていた。「自分が作りたいパンを作り続けられる規模の店舗を探していました。その候補にたまたまこの平塚の店舗があったんです」と説明する。
駅から徒歩30秒という立地や家賃だけでなく、幅広い世代が住んでいることや子育て世代が多いというまちの雰囲気にも引かれたそう。その中でも特に平塚市での出店を後押ししたのは、補助金制度だった。「候補にしていた店舗がある自治体で、ここまで手厚い支援があるところはありませんでした。初めてお店を持つという挑戦には心強かったです」。
・働いて知る平塚の強み
知り合いのいない地での創業・出店に一抹の不安はあったものの、新しい挑戦にいつも前向きだった一林さん。「詳しい手続きなどは、平塚商工会議所の方や税理士に教えてもらえたので助かりました。ただ好きなことを実現するためなので、大変と思うことはありませんでした」と振り返る。令和4年12月にオープンした同店は、そのおいしさで着実に顧客を獲得している。「平塚では珍しいハード系のパンを好きになってくれる、グルメなお客さんが多い印象です」とにっこり。「家族の分も、とまとめ買いしてくれる方もいてありがたいです」と続ける。
また一林さんは平塚に住み始めて実感したことがある。「暮らしやすいし、職場にも通いやすい。無理なくお店を続けられています」。
・知ってもらう機会作り
店を構えて2年がたち、常連客も増えてきた今、一林さんは、店をもっと知ってもらうため、行動を起こしている。「今年10月、初めて市外のイベントで出張販売しました」。実際に「食べてみたかったけれど、なかなか行けなかった」という声もあったそう。「こうしたイベントでの出会いが、平塚に足を運んでもらうことにつながったらうれしいです
よね」と笑みをこぼす。
「チェーン展開などをしてしまうと、今のペースで新作を考えたり、自分の好きなパンを作れなくなったりします。規模は変えず、この店舗で作りたいパンを作り続けたいと思います」。研さん期に、自身に合ったやり方を見つけていたからこその真っすぐな言葉だった。
◆魅力ある個店と一緒に盛り上げたい
・駅前商和会 添田直会長
商店街内の店舗同士の相互扶助を目的として、各店舗のオーナーらで構成される商店会。平塚市には42の商店会がある。添田さんは、その一つである駅前商和会で平成27年から会長を務めている。先代から50年以上続く、不動産会社を営み、商店街を見続けている。
時代のはやりによって、駅前の店舗は入れ替わり、今は美容やスポーツジムなどがよく入るようになりました。一方で、生鮮食品店や洋品店は見なくなりましたね。新しいマンションができて人口は増えているのに、歩いて行ける距離にある生鮮食品店がどんどんなくなっていることを危惧しています。昔から住んでいる方、特に高齢の方は、買い物難民になってしまうんじゃないかと心配しています。オンライン化が進み、実店舗が全ての人にとって必要とは限りませんが、住んでいる人が、必要な買い物を大変に感じない商店街であってほしいですね。
◇ご縁があった物件で末永く
私の仕事はご縁がある物件と事業者との仲介です。なるべく希望に添えるように、物件のオーナーとの調整などをしています。
新型コロナが5類に移行してからは、出店に意欲のある方からの相談が増えたように思います。補助金制度は以前より使いやすくなりましたね。多くの場合は平塚商工会議所で相談してから物件を探しに来ます。今後も市や商工会議所とのコミュニケーションをしっかり取って、必要に応じた案内をしていきます。
物件を探す事業者によく伝えるのは「譲れない線を三つくらい持ってきてください」という言葉です。自分のやりたい形を明確にしてもらって、出店後、どうやって店を続けるのかが重要なんです。
駅前商店街を一緒に盛り上げたいと、自分だけでなく、全体を見渡せる事業者が入ってくれると良いですね。実際にそういった熱意を持って出店し、平塚を盛り上げてくれている方もいます。この商店街を好きになって、長く続けてもらえたらうれしく思います。
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