■第六十四回 思い立ったが吉日
県立金沢文庫 学芸課長 道津 綾乃
旅立ちの日、少しの憂うつと未知の世界への興奮を覚えながら扉を開ける。現代の私たちの旅の障りは、天候や病気などであろう。しかし、江戸時代は違った。
旅に出るには、往来の切手(許可状)が必要で、武士ならば家老や奉行、農民ならば名主、商人ならば店主、職人ならば親方などが発行者だった。また、手形(通行証)を持たない関所破りは死罪と、厳しい統制を敷いたお上(幕府)だったが、参詣と湯治を目的とする旅には、比較的寛容だった。とはいえ、莫大な旅費の工面は簡単ではなく、庶民が旅空を仰ぐのは夢のまた夢だった。
木版技術が発展した江戸時代は、本や版画が町にあふれ、庶民は大いに楽しんだ。売れ筋のひとつが旅本や絵地図、名所絵といった旅情をかき立てる作品で、自由な旅ができない分、庶民は図上で旅行を楽しんだのである。そんな江戸時代の旅を追体験しようというのが、現在開催中の金沢文庫の展覧会である。サァ、お立合い、お立合い。
■企画展「江戸当世図上旅行」
期間:5月24日(金)~7月21日(日)
費用:一般250円(150円)、20歳未満・学生150円(100円)、65歳以上・高校生100円、中学生以下・障害者は無料
※( )内は20人以上の団体料金
休館日:毎週月曜日(7月15日(祝・月)を除く)、7月16日(火)
問合せ:県立金沢文庫(金沢町142)
【電話】701-9069【FAX】788-1060
<この記事についてアンケートにご協力ください。>