■〔Chapter2〕 いつかまた巡ってくるものだから ごみにも感謝の気持ちを
滝沢ごみクラブ
横須賀代表 渡辺智子さん
Profile:神奈川県鎌倉市生まれ。平成町在住。滝沢ごみクラブ横須賀代表。子どもたちを虜にする紙芝居は、想いに加え、保育士の経験の賜物。
11月上旬、ANAウインドサーフィンワールドカップに沸く、津久井浜海岸。軽食などのキッチンカーやブースが連なるエリアには、会場内のごみ分別・回収を一手に担う「エコステーション」があった。このエコステーションでは、すべてのごみの再資源化のため、細かな分別・回収による「ごみゼロ」を目指している。ここで、子どもたちに笑顔で分別方法を伝えているのは、渡辺さん。お笑い芸人でごみ清掃員の滝沢秀一さんが主宰する「滝沢ごみクラブ」の横須賀代表を務める。
◇志のルーツは母の言葉
志の芽生えは、幼少期に遡る。きっかけは、一枚の飴の包み紙を落とした時にかけられた、「落としたならちゃんと拾いなさい」という母からの言葉。その時から、「地球に還らないものは、残してはいけない」という意識が生まれたという。自らが親になった後も、子どもたちと通園・通学路や自宅の周りのごみを一緒に拾い続けてきた。
高度経済成長期以降の技術革新は、大量生産・大量消費を可能にさせた。それは、豊かで便利な暮らしをもたらした一方で、大量廃棄という深刻な状況を生んでいる。環境省によると、約20年後(2041年ごろ)には、ごみを埋め立てる最終処分場の容量は限界を迎えるという。この現実を知った渡辺さんは、焦燥感、危機感を募らせた。そんなとき、滝沢ごみクラブで活躍する仲間の存在を知ったことで、自身の活動の励みになったと当時を振り返る。
◇「ごみゼロ」を目指して
家庭でできる「ごみゼロ」の取り組みの一つに「コンポスト」※の活用が挙げられる。渡辺さんは、小さなバッグで再現したコンポストを持ち運び、イベント会場などで積極的に紹介している。興味を持ってくれる人は多いという。「コンポストを覗くと、種の発芽を目にすることがある。私にとってはごみでも、それを必要としてくれる誰かがいることに気づかされる」と教えてくれた。また、ごみゼロにつながる分別方法を広めるため、さまざまな地域で、参加型の紙芝居にも励む。親しみやすいキャラクターが登場する内容に、歌や身振り手振りを添え、人々を惹きつける。生き生きとした実演は、県内外で100回を超えるという。
※土の中の微生物の働きで生ごみを分解する生ごみ処理装置
◇ごみへの感謝の気持ちを
最終処分場が姿を消しているかもしれない25年後。渡辺さんは、次世代に何を託すのか。
今を生きる子どもたちにとって環境問題は、かつてよりも身近な存在にある。「『今までありがとう。これからもどこかでよろしくね』と、ごみにも感謝の気持ちを抱いてほしい。そして、それをまずは私たちが率先していきたい」と自身の活動の未来を想う。ウインドサーフィンワールドカップから1週間後。
横須賀市主催のリサイクルイベントには、子どもたちを前に、紙芝居を実演する姿があった。渡辺さんの揺るがない信念と、子どもたちの真伨な眼差しに背筋が伸びる気がした。
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