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海老名むかしばなし 独鈷(どっこ)の井戸

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神奈川県海老名市

伝説や民話など、市にはさまざまな昔話があります。上今泉の「三日月井戸」「独鈷井戸」が海老名市登録史跡に初登録されたことにちなみ(本紙16頁(ページ))、「独鈷の井戸」のおはなしを紹介します。

昔、汚れ衣に頭陀袋(ずだぶくろ)、笈(おい)を背に負い破れ笠、手甲脚半(てっこうきゃはん)にわらじばき、右手に独鈷の杖(つえ)(両端が分岐せずにとがっている杖)、左手に数珠をかけたみすぼらしい坊さんが井戸坂を上ってきました。
上り終えると「どりゃ、一服」と傍らの石に腰をかけ、広い海老名耕地やはるかな阿夫利(あふり)、丹沢のすばらしい山並みを眺め「この里はなんと良い処(ところ)じゃのう!」と誰に言うともなくつぶやきました。それから、やおら立ち上がるとお経を読み読み、あの家この家の門に立ち托鉢(たくはつ)を始めました。真昼どきの夏の太陽は、前方の相模横山といわず、その麓(ふもと)に広がる虹(にじ)が原(尼寺(にじ)が原)といわず遠慮会釈もなく照り付け、村の道には人っ子ひとり通る姿もありません。
修行を積んだお坊さんも、さすがに喉がからからに干上がり、一心に唱えるお経の声もしわがれ声に変わってしまうのを、どうすることもできなくなってしまいました。
そこで、通りがかった村はずれの一軒家に住む婆さんに、汗をふきふき「どうか水を一杯めぐんでくだされや」と片手拝みにお願いしました。すると井戸のほうからやってきた意地悪婆さんは、「うちにゃあ、水などありゃしないよ」とぶっきらぼうに情けもかけずに断りました。「なけりゃいいさ」と、旅の僧は持っていた杖で大地を突くと、不思議や不思議、水がぼこぼこと歓声をあげるかのように噴き出しました。お坊さんは両手でその水をすくってうまそうに喉をうるおすのでした。
その後、いつまでもそこからはいっぱい清水が湧き出るようになりましたが、意地悪婆さんの井戸からは、ぱったり水が出なくなってしまいました。
この旅のお坊さんこそ、あの有名な弘法大師だったのです。井戸の名は弘法様の杖にちなんで「独鈷の井戸」または「弘法さんの井戸」と呼ばれ、上今泉にある常泉院の鐘楼の崖下に現在もあります。常泉院の右手奥にも有名な「三日月井戸」もありますが、その流れと独鈷の井戸の湧き水が合流し小川となって流れ、近所の家々の生活用水として利用されていました。
弘法伝説には諸説ありますが、現在の「今泉」という地名はこの2つの井戸などから豊富な水が湧き出ることに由来しているといわれています。また、「今」という字が使われていることから、泉の影響によって新しくできた集落とも考えられています。
(海老名むかしばなし第5集より)
※原文を参考に一部編集しています。

■販売中 海老名むかしばなし
市役所地下売店で、「海老名むかしばなし」第2集~9集を各300円で販売しています。昭和53年~平成14年の広報えびなに掲載した伝説・実話など約450話を9冊に再編集したものです。

問合せ:シティプロモーション課
【電話】235-4574

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