市民通信員が身近な話題をリポート
■この地の小さな宇宙
鎌倉地区 上昭子(うえしょうこ)さん
「あじさい」を合言葉に、北鎌倉駅に夏がやってくる。下り列車が止まるたびに、観光客の長い列が東口改札へと流れる。
新緑と、ウグイスの鳴き声を耳にするのは西口も同じだ。その西口改札を出れば、線路に並行して、鎌倉街道(県道21号線)が大船方面に向かって延びている。
勝手を知る多くの住民は、街道の車の多さと、狭い歩道を避けて、脇道に入る。
古民家と新築の家が、細い道と小川の両脇に並ぶ。どの家の庭先にも、木があり、花がある。梅から始まる花や樹木は、桜、ツツジ、あじさいを経て、晩秋まで静かに優しく、あるいは華やかに、道行く人を楽しませる。
「電線にリスが止まってる」
坂の途中だった。リスを脅かさないように、小声で指さす女子高生がいた。同じ制服の子が次々と寄ってくる。犬を連れた女性も足を止めて、一緒に見上げている。
先週まで、夜になれば小川のほとりでホタルが舞っていた。今週はウシガエルが鳴きだした。
小径(こみち)を抜け、小高い丘を上る。遠くで踏切の遮断機の音がして、振り向けば、眼下に大船の街が広がっていた。谷間の密集した家並みの、わずかな隙間を縫って、電車が通過して行く。
観光客の知らない、この地の小さな宇宙である。
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