■北条時房・顕時邸跡から出土した題箋軸(だいせんじく)
前回(本紙9月号)、大倉幕府周辺遺跡群(横浜国立大学教育学部附属鎌倉小・中学校構内)で出土した「題箋軸」を紹介しました。題箋軸とは、巻物の軸の先端を札状に加工したもので、ここに年号や文書名などを記し、巻物を開けずに内容が分かるようにしたインデックス(見出し)です。鎌倉時代に文書がどのように管理されていたのかがうかがえます。
昨夏実施した鎌倉市遺跡調査・研究発表会では、この資料のほかにも、今回ご紹介する題箋軸が話題に上がりました。
その題箋軸は、平成14年に雪ノ下一丁目の若宮大路の西側に接した調査地点で、鎌倉時代後期~末期の地層から出土しました。この場所には、幕府の連署(幕府内の執権を補佐する要職)であった北条時房や、金沢流北条氏の第3代当主・北条(金沢)顕時の邸宅があったと推定されています。
先端の題箋部は約5センチで将棋駒を縦長にしたような形で、一面に「信乃下向路銀(しなのげこうろぎん)」、もう一面には判然としない墨書き5文字が記されています。「信乃下向路銀」は、信乃=信濃国(現在の長野県)へ下向=向かうための路銀=旅費という意味とも考えられます。北条氏の屋敷内で保管された、信濃国への出張旅費に関する文書だったのかもしれません。
幕府勤めの仕事なのか、家の所用なのかは不明ですが、領収書の保管義務があったのでしょうか。鎌倉時代の「出張(旅行)事情」も、現代に通じるものが想像され、興味が湧きます。
本調査地点を含む発掘報告書は、全国遺跡報告総覧(奈良文化財研究所ホームページ)(外部サイトへリンク)からご覧いただけます。
[文化財課]
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