今月のテーマ「家族」
■『海の見える理髪店』
荻原浩 著(集英社)
6編の短編小説集。表題作は、海辺の小さな理髪店を訪れた「僕」と、大物俳優たちもほれ込む腕前を持つ店主の物語。調髪しながら、自らの人生を語り始めた店主は、「僕」が理髪店に最初で最後となる予約を入れた理由に気づく。作品に出てくるのは、家族のことで何らかの後悔の念を抱えた人たち。過去と向き合い、未来へ踏み出み出すきっかけをつかもうと、懸命に生きる彼らの姿に、じんわりと心が温かくなる作品。
■『戦国日本の生態系(エコシステム) 庶民の生存戦略を復元する』
高木久史 著(講談社)
戦国時代の庶民といえば、自給自足の農民で、領主から搾取されるだけの存在だと思われがちだが、当時の記録を庶民の目線で捉え直すと、意外としたたかにたくましく生きていたことが分かる。時として彼らは、領主に対して家族のように協力する代わりに、権利の保護や争いごとの調停を要求した。越前国西部(越前海岸や丹生山地周辺)に残された記録を読み解き、信長や秀吉といった英雄の活躍を主体的に支えていた庶民の営みを描き出す。
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