NPO法人ふくいこどもホスピス代表 石田千尋(いしだちひろ)さん(41)
鯖江市出身、在住。任意団体「ふくいこどもホスピス」を2021年3月に立ち上げ、今年4月にNPO法人化。今後は、より支援を得られやすい「認定NPO法人」化を目指している。
《福井にこどもホスピスを》
小児がんなどの重い病気と闘う子どもや家族らを支援する「こどもホスピス」を県内に作ろうと4月、仲間たちと一緒にNPO法人「ふくいこどもホスピス」を立ち上げた。「病気と闘う子どもと家族を笑顔にしたい」。胸に宿す思いを、天国で見守る一人息子・夕青(ゆうせい)くん(1歳9か月)に誓う。
夕暮れに映える青い日本海のように、強くて優しい子に育ってほしい―。名前に込めた願い通り、夕青くんは明るく好奇心旺盛だった。気が付けば階段を一人で上り、初めての滑り台も物おじせずに滑った。みそ汁を飲むと「スープ、おいしいね」と笑い、5キロの米袋を「重たい」と言いながら引っ張った。家族を和ませる愛息は、いつも団らんの真ん中にいた。
そんな夕青くんに異変が起きたのは2018年秋。夫の仕事の関係でドイツに渡った直後のことだった。38度台の熱が続き、首にはこぶし大の腫れ。病院で診てもらうと小児がんの一種と診断された。すでに進行していたため抗がん剤治療が始まったが、副作用の影響で吐いたり、徐々に髪が抜けたりした。
その年の大晦日。腫れあがった肝臓の画像を医師に見せられ、「もう助からない」と告げられた。重すぎる現実を受け止められず、泣き叫んだ。「肝臓なら私のと取り換えてください。ここでできないならロシアにでもアメリカにでも行きます」
泣きはらした後、病室に戻り、たたずんだ。静かな空間。ベッドに横たわる我が子。病気の進行でもうあまり話すことができない。その時だった。小さな声が病室の静寂を破った。「おうちにかえろう」。振り絞るような夕青くんの声だった。顔を近づけ、精一杯の返事をした。「うん、鯖江のおうちに帰ろうね」。涙が止まらなかった。
ただ、「長時間の飛行には耐えられない」との病院の判断もあり、紹介された現地のこどもホスピスに移った。緑に囲まれた、シェアハウスのような開放的な雰囲気。闘病中でありながら笑顔になれる瞬間もあったのは、「病気に立ち向かう子どもはみんな英雄」と話すスタッフたちの献身的な支えがあったからだ。片時も離れず夕青くんに寄り添い、時に思い切り抱っこした。こどもホスピスに移ってから5日後、小さな勇敢な英雄は静かに旅立った。
それから約2年はほとんど記憶がない。帰国してからぽっかりと空いた心に時おり去来するのは、短くも家族らしく過ごせたこどもホスピスでの日々だった。やがて、一つの思いが芽生えた。
「福井にこどもホスピスを作る」。2021年3月19日、SNSでそう宣言すると、賛同者が集まり、次第に輪が広がった。これまで、同じ経験を持つ家族同士の集まりを定期的に開いたり、闘病中の子どもに描いてもらった絵を基にデザインしたジグソーパズル制作などに取り組んできた。
「これから更に活動を進めたい」と話すように、NPO法人の設立はこどもホスピス開設への大きな節目だ。「看取りのためだけではなく、子どもも親も生きる喜びを感じられる場を地域の皆さんと作りたい。そんな温かい場所が、夕青くんの帰りたかった『おうち』だと思うんです」
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