■第355回 文化財編(32) 緑深く雨満ちる川島の杜
南北朝時代、南朝方に属した在地の武士・河島維(惟)頼(かわしまこれより)が篤く崇敬した加多志波(かたしは)神社と蓮華寺。加多志波神社の祭神・多加意加美神(たかおかみのかみ)は「高おかみの神」(※)とも書き、山上に宿り雨を司る龍神をあらわします。また、三里山中腹に建立された蓮華寺は、七堂伽藍と層塔を有した名刹だったと伝わります。
現在、大杉の木立が厳かな神社の境内には、鎌倉時代に建立されたという三重塔の礎石や、戦国時代に蓮華寺の伽藍を再興した朝倉景紀(あさくらかげただ)が寄進したという鳥居の台石が遺ります。また、雨乞いに用いられた追儺面(ついなめん)(国指定文化財)が納められていた四脚唐櫃(しきゃくからびつ)には、景紀が孫の七郎と蓮華寺の奥坊・光厳寺で隠居したことが記されています。
天正19年(1591)頃、蓮華寺は豊臣秀吉の朝鮮出兵をうけた長谷川秀一(はせがわひでかず)(東郷城主)の軍資金調達を拒否。焼き討ちに遭って広壮な聖域は衰微しましたが、末流の浄願寺と専立寺が今なお武人の墓塔を守ります。
三里山が神水を湛える季節、静かなる杜を訪れてみてはいかがでしょう。
(文化課 藤田彩)
※「高おかみの神」の「おかみの」は環境依存文字のため、かなに置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
◇平成21年度指定の市指定文化財(2)
伝朝倉九郎左衛門景紀墓塔(川島町)
伝河島維頼・大瀬藤蔵宝塔(川島町)
蓮華寺旧蔵鬼面箱(四脚唐櫃)(川島町)
三重塔跡(川島町)
旧八幡神社鳥居台石(川島町)
加多志波神社の社叢(川島町)
<この記事についてアンケートにご協力ください。>