■第356回 文化財編(33) やんしきの音頭が響く故郷の踊り
万葉の歌人で三十六歌仙の一人である柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)が「大和の国は言霊(ことだま)の幸(さき)はふ国」と言葉に宿る霊性を詠(うた)ったように、歌・音曲・踊りなど芸能の源流には人々の祈りが宿っています。
初秋の風物詩「盆踊り」は祖霊を慰める声明(しょうみょう)に法螺貝(ほらがい)・三味線・太鼓などの伴奏を加え、さらに世俗の事件や恋愛事の語り(口説き)がついてブームとなった行事で、鯖江藩城下でもにぎやかに催されていたことが記録に残っています(『鯖江市史』地誌類編「さむしろ」)。
丹南地域を中心に嶺北一帯で親しまれてきた「やんしき(やっしき)」は、旅芸人や行商によって伝えられた祝い唄の「松坂」や「越後松坂」から派生したと考えられ、村の結束力を基盤に発展してきました。しかし、戦後に家制度が否定され、若年層が都市部へ流出したことで、昭和40年代以降徐々に途絶え、今では鯖江周辺で継承されるのみとなりました。
神仏や祖霊に豊穣と多幸を祈る祭礼は、近年、旧来の村コミュニティ維持の難しさから存続の岐路に立つものが少なくありません。時に伝統の祭りに宿る先人の祈りに思いを馳せ、故郷(ふるさと)を愛しむひと時をもちたいものです。
(文化課 藤田彩)
◇平成22年度指定の市指定文化財(1)
紙本著色三十六歌仙図屏風(四方谷町)
やんしき踊り(やんしき保存協会)
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