■第360回 文化財編(37) 神宿る面が物語る古(いにしえ)のサバエ
「獅子頭(ししがしら)」を被って舞う正月の予祝芸能「獅子舞」、その源流は8世紀頃に中国から伝来した伎楽(ぎがく)(古代日本の仮面劇)に遡ります。演劇の前、露払い役の赤ら顔に高い鼻を持つ老相・治道(ちどう)が演技場の邪気を払い、ライオンを神格化した霊獣・獅子の舞が場を浄化しました。
さて、『舟津社記』に見える猿田彦(さるたひこ)は、コシ(北陸一帯)の反乱勢力を征討するため、崇神(すじん)天皇に遣わされた大彦命(おおひこのみこと)が「王山」で出会った導きの神です。天孫降臨の道案内を務めた猿田彦は、治道と同じく赤ら顔に長い鼻と輝く目を宿す異形であったことから、後世には山の怪異「天狗」と混同されることもありました。
また、室町時代の能面師・出目満照(でめみつてる)の作である茗荷悪尉(みょうがあくじょう)は、茗荷形の眼尻が垂れ下がった表情が特徴的な能面で、「悪」は強く恐ろしげな様子、「尉」は翁を意味し、神や怨霊などの異相を表現します。能『張良(ちょうりょう)』ではこの面をかけた黄石公(こうせきこう)(秦(しん)末の隠士)が軍師・張良(劉邦(りゅうほう)に仕えた)に兵法の奥義を伝授する場面があり、王山で大彦命を導いた猿田彦の姿を彷彿(ほうふつ)とさせます。
幽玄の世界から現世(うつしよ)を見つめる「面」は、表情豊かに古を物語ります。
(文化課 藤田彩)
◇平成24年度指定の市指定文化財(1)
舟津神社の神輿
木造獅子頭(3面)
木造猿田彦面
能面茗荷悪尉
(舟津町)
<この記事についてアンケートにご協力ください。>