草野球チーム「佐野クリーニング店」 選手兼監督 佐野優(まさる)さん(33)
小学1年から「鯖江野球スポーツ少年団」に所属。現在は同チームで指導者を務める。本業ではアイロン技術に絶対の自信あり。好物はそば。妻・佑奈さんと2人暮らし。
《仕事も野球も全力投球》
家業の店名を冠した草野球チームで選手・監督を務める。年代や職業の垣根を越えて集まるチームは昨年、由緒ある大会で初の優勝を果たした。「仕事と家庭を第一にしながら、息の長いチームづくりを目指したい」。衣類の汚れを真っ白に洗い上げる洗濯職人は、純白な心で日々の仕事と白球に向かっている。
今も忘れられない場面がある。小学6年で迎えた最後の大会だ。練習では負けたことがない相手と予選の初戦でぶつかり、競り負けていた。ラストバッターは主将である自分。「ここで打てなかったら終わる」。焦る気持ちからは一本が出ず、敗れた。「格下と思っていたチームに油断し、足元をすくわれた」。悔し涙とともに、勝負の厳しさを身をもって知った。
その悔しさをかみしめるように練習を重ね、高校では古豪の福井商業に入部。試合メンバーにはなれなかったが、レベルの高い環境で体力も技術も磨けたことは大きな財産だ。
そんな下地もあってのことだろう。家業を継ぐための県外修行では、6時出勤・23時帰宅の日々も苦にならなかった。のみならず、シミ落としなどの技術を学ぶたびにやりがいさえ覚えた。努力家の気質に柔らかな人柄も相まって、今に至っている。
一方、野球が好きな気持ちは変わらず、社会人になって以降は草野球チームに入ってプレーを続けてきた。ところが、鯖江市内で活動するチームに入っていた時、部員不足などを理由にチームは解散。そこで、「新たなチームで野球がしたい」と仲間を集めて2020年、「佐野クリーニング店」を立ち上げた。命名は先輩部員たちの総意だ。
メンバーの本業はそれぞれ違う。会社員にトラック運転手、元プロ野球選手もいる。居酒屋で開いた「発足式」ではメンバーに呼びかけた。「和気あいあいと楽しく、勝ちにもこだわりたい。なんでも言い合えるチームにしましょう」。その願い通り、年上からも年下からも意見が飛び交う風通しの良さはチームの強さの秘訣になっている。
昨秋にあった「第48回県民野球選手権大会美濃美雄(みのよしお)杯」(県軟式野球連盟主催)。歴史ある大会の初戦は、福井市のチームを相手に、試合は延長八回タイブレークにもつれこんだ。2-4で2点を追う裏の攻撃。無死一・二塁の場面で打席に入る四番・黒田和也さんに「三振かホームランを狙え」と声をかけた。普通ならば、犠打で走者を進めて確実な得点に結びつけるのがセオリーだ。「バントせんでいいんですか」。不思議がる黒田さんに「お前は四番やろ」と送り出すと、黒田さんは3点本塁打を放ってサヨナラ勝ち。続く2回戦ではエース・清水皓登(ひろと)投手が力投して投手戦を制し、その勢いのまま優勝まで一気に駆け上がった。
試合中はチームメート同士の声かけがやまない。守備でエラーが出れば場を和ませるやじが誰からとなく飛ぶ。その代わり、試合後はしっかりと反省点を共有する。メリハリの利いたチームだからこそ、楽しく、勝てるチームができる。「生き生きとプレーできる舞台があるのは幸せなこと。この感動をみんなと長く分かち合えるチームでありたい」。悔し涙に濡れたかつての野球少年は今、家業との二足の草鞋を履きながら飽くなき夢を追い続けている。
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