◆この白杖で、これからも前へ前へ!
川島 香代子さん(ネットワークこだま代表)
「10分で私のことは分かるよ」けらけら笑う川島さんはとにかく明るい。会話は淀みなく、機知に富んだ受け答えに、年齢や障がいを越えて会話が弾む。長年会社員として培った心地よい距離感の取り方や話術、人を楽しませようとするサービス精神の賜物だろう。
失明したのは60歳の時。定年を迎え「第二の人生はボランティア活動を」と考えていた矢先、突然真っ暗闇の朝を迎えた。予期せずボランティアの人たちに〝支えてもらう側〟に。病名は「黄斑部変性症※1」(その後、薬で右目だけわずかに視力が回復)。〝昨日見えていたものが今日見えない〟事実に、どれほど混乱し絶望しただろう。想像しただけで恐怖だが、実際には「落ち込んでいる暇はなかった」と言う。『助けて、目が見えないの』すぐに5人の友人に助けを求め、福祉課へ行ったり白杖を買いに行ったり。「市視覚障がい者の会ネットワークこだま※2」と出会えたのも仲間のおかげだった。目が不自由になったことで、たくさんの人の優しさと愛情に支えられ、自分が生かされているのだと実感した。事実、友人たちは彼女のことを周りに伝え、さらにたくさんの人たちが助けてくれるように。
彼女は言う「障がいがあってもなくても、大人でも子どもでも『困ったら抱え込まずにとにかく周りの人にSOSを出してみて。』そうすれば、きっと何かが変わるから」と。
77歳の彼女は、白杖をつき一人で福岡市内の作業所へ出掛け、パソコンを使ったテープ起こしの仕事をしている。市の福祉相談や小学校の福祉授業にも出向く。先日、まちで高校生が「何かお困りではないですか?」と声を掛けてくれた。小学生の時に授業を受けた子だった。「ちゃんと届いている!繋がっている!」蒔(ま)き続けた思いやりの種が、ちゃんと芽吹いていたことがうれしかった。
自分が失明した朝のように、明日は何があるか誰にも分からない。だからこそ今を大事に、人にやさしく生きて欲しい。福祉授業でも「自分や障がいのある人を見かけたら『何か手伝うことはありませんか?』と声をかけてくれるとうれしいな」と子どもたちの心に種を蒔(ま)く。
帰り際「ね!本当に私分かりやすかろ?10分で分かったろ?」おどけてみせる川島さんの笑顔には、確かに分かりやすく〝人間が大好き〟という彼女の博(ひろ)くて深い愛情がにじみ出ていた。
※1 異常な血管が侵入して出血し網膜がダメージを受ける病気
※2 ネットワークこだま:当事者を中心に、点字の会「ルイの会」・音訳の会「カナリヤ」・スポーツの会・個人の方の4つのボランティアで支えている。バスハイクなど年4回の楽しい行事、また情報共有や社会参加推進の場です。興味のある方は下記までご連絡ください。
問合せ:
・社会福祉協議会
【電話】944-2941
・福祉課
【電話】692-1078
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