・数年ほど前から、実家に帰ると〝近くの植物園で父の写真撮影〟を頼まれるようになった。季節の花をバックに一人父を立たせ、カメラを構える私の隣で母が「ほらお父さん笑って!」と注文を出す。母は、90を超えてから急に弱り始めた父に、何があっても慌てないよう〝遺影〟の準備をしたいようなのだ。父も、それを知っているから毎度複雑な笑顔。親子して何となく気まずい空気になるのが常だ。
・先日も恒例の植物園へ。出かけ際父が日頃被らない帽子を持っているのに気付いた。十数年前誕生日に私がプレゼントしたハンチング。「うれしい」と言った割に帽子は長い間壁に掛かったままだった。カメラを覗くと、白いあじさいの前に立つ父が手に持ったハンチングをおもむろに被りそして笑った。別れが近いようなそんな仕草に驚き、切なくなった。
・来年も再来年もずっと笑って遺影を撮り続けようね。今月末は父の誕生日。
(友杉)
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