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こがんひとこがんとこ Vol.69

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福岡県古賀市

◆内なる声の赴くままに
マツオ マサトさん(会社員・アーティスト)

マサトさんには精神疾患の障がいがある。息子が2歳の時に幻聴が聞こえ始めた。耳栓をして働いたが、自分を蛇蝎視(だかつし)だする脳内の声は止まず、仕事もままならなくなってしまった。投薬と注射で改善してきたものの躁うつの症状も強く、情緒不安定で一緒に暮らす家族は大変だったそうだ。そんな中、長男が持っていた画材を目にし、「描いてみたい」衝動が作品制作のきっかけになった。描いている間は猛烈に集中し幻聴は聞こえない。緻密なペン画の中でも「ELEPHANT★」は、「2021年ふくおか県障がい児者美術展」の佳作を受賞した。

有田焼のデザイナーだった祖父の影響か、子どもの頃から絵は好きだった。嫌なことがあり、中学2、3年は学校へ行かず家で絵を描いて過ごした。「辛くはなかった。絵が救いだったから。」高校では友達もでき、まるで断食後のように全てが新鮮に感じられた。美術の時間には、こだわりの強い彼に好きな表現法で絵を描かせてくれた。この学校でよかったと思った。中学校に行かなかった過去は後悔していない。あの時間も自分にとってはきっと意味があったと思うから。

マサトさんの仕事は、工場と警備のダブルワーク。一進一退の病気と折り合いながら励んでいる。病気の夫を支え、マツオ家の家計を支えてきた起代子さんとは結婚16年目。「精神疾患がある人との共同生活って本当に大変なんです。並大抵ではないです。」その言葉にマサトさん自身も神妙な面持ちでうなずいた。本人と家族が一丸となり戦ってきたのが見て取れた。「うちは普通の家庭と違うもんねえ?」と起代子さんが水を向けると傍らの息子は「こんなもんやろ~?」と笑い、父親の病気が載ることも「実際そうだし、別に。」と明るい。13歳の鎹(かすがい)は、マツオ家の脆弱な部分をやさしく強く支えている。

貼り絵の作品を見せてくれた。シュレッダーで裁断し、はさみを入れた4mm×4mm程の小片にのりを付け、隙間のないように貼り込むのにおよそ一週間。気の遠くなるような作業も彼にとっては至福の時間。「息子にいつも言うのが、自分の好きなこと自分しかできないことが仕事になったら幸せだよって。」目下、彼の夢は個展を開いてたくさんの人に見てもらうこと。それが仕事になれば幸せ。今後も病気という個性とうまく付き合いながら、アート作品を生み出し続ける。

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