九州国立博物館長 富田 淳(とみた じゅん)さん
令和2年度、九州国立博物館に着任した私は、太宰府市五条に居を構え1年を過ごしました。疫禍(えきか)の対策に明け暮れるなか、業余(ぎょうよ)の楽しみが、太宰府の各所を散策することでした。
もっとも頻繁に歩いたのが、五条の寓居から戒壇院、観世音寺、大宰府政庁跡を経て、御笠川に沿って戻る経路です。時間に余裕のある時には、大宰府展示館に立ち寄り、気が向くと坂本八幡宮や榎社に足を延ばします。社寺の解説からは、大宰府が歴史上の要衝であったことに改めて認識を深め、桜並木に心なごませ、政庁跡のせせらぎでは数年ぶりに蛍狩りを鑑賞しました。
神幸式の大祭は規模を縮小していたそうですが、初めて目の当たりにする私は、厳(おごそ)かに練り歩く行列に、大きな感動を覚えました。
東アジアの玄関口として繰り広げられた壮大なドラマに思いを馳せ、「道真も仰ぎし月の皎(しろ)さかな」などと嘯(うそぶ)きながら、いつも帰途に着いたものです。今回も引き続き大宰府を満喫し、もう少し気の利いた駄句をひねり出したいと思います。
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