■正月7日の「うそ替え」行事と人勝(じんしょう)
太宰府天満宮では、毎年1月7日の夜に「うそ替え」といわれる伝統行事が続いています。これまでの研究で少なくとも江戸時代の初めにはおこなわれていたことが分かっています。「木うそ」という木彫りの鳥に旧年中に自分でついた嘘を込め、それを「誠」に変えるために、漆黒の闇(やみ)の中で他の人とつぎつぎに「木うそ」を交換し合います。ものを交換して良いことを手に入れるという、神事としては珍しい行事です。
この行事の元となると思われる習慣は、古代中国の正月行事に見られます。『荊楚歳事記(けいそさいじき))』という6世紀の中国・長江中流域の年中行事を記した本の中には、「正月七日は人日と為す。七種の菜を以て羹(あつもの)(スープ)と為す。綵(あやぎぬ)を翦(きり)(切り)て人と為す。或いは金簿(金箔(きんぱく))を鏤(ちりば)めて人と為す。以て屏風(びょうぶ)に貼り、また、これを頭髪に載せ、また、華勝(かしょう)(髪飾り)を造り、以て相遺(のこ)す。高(たかみ)に登って詩を賦(ふ)す。」とあり、正月七日は人を尊重する日と定められ、古代中国では1月7日は「人日(じんじつ)」「人勝(じんしょう)」と呼ばれていました。この日に、美しい模様の絹(きぬ)織物や金箔(きんぱく)を人や動植物の形に切り抜いたり、屏風に貼ったり、髪飾りにして贈答しあうことで、無病息災(むびょうそくさい)や子孫繁栄(しそんはんえいを願う習慣があったようです。奈良の正倉院に「人勝残欠雑帳(じんしょうざんけつざつちょう)」という絹に文字と文様が描かれた新年の挨拶状(あいさつじょう)が残されており、日本でも古代より1月7日に工芸品を贈答する習慣があったことが知られます。布の中央に「令節(れいせつ)の佳辰(よきひ)、福慶(ふくけい)惟(ただ)新(あらた)たなり、やわらぎ和(なご)むこと万載(まんさい)、寿(じゅ)保(たも)つこと千春(せんしゅん)」と書かれています。『万葉集(まんようしゅう)』巻五「梅花歌三十二首并(ならびに)序」の「初春の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風和(やわ)らぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香を薫(かお)らす」に通じる新春の情景です。
古代の新春に思いをはせながら、木うそを手にして「うそ替え」に参加してはいかがでしょう。
文化財課 山村(やまむら)信榮(のぶひで)
■筑紫地区文化財写真展『推しの文化財』を開催
日時:令和7年1月7日(火)~19日(日)
場所:いきいき情報センター2階 市民ギャラリー
文化財課 調査係
【電話】内線470
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