■田川郡で最古の絵馬は落合の高木神社に!?
12月となり、新しい年を迎える準備を少しずつ始める時期となりました。年末には除夜の鐘をつき、新年には初詣へ行き、一年の願いごとを絵馬に書いて奉納する人もいるのではないでしょうか。今回の歴まちコラムは絵馬にまつわる話を紹介します。
田川郡では平成2(1990)年から5(1993)年にかけて、郡内の社寺に残っている絵馬の調査が実施されました。この調査では276点の絵馬が報告されており、そのうち178点は奉納年が分かりました。江戸時代のものが19点、それ以降のものが159点です。郡内で最も古い絵馬は、安永9(1780)年に落合の高木神社へ奉納されたものです。絵馬の大きさは縦86cm×横114cmで、白馬が綱で繋がれている絵柄から「繋馬図(つなぎうまず)」と呼ばれています。絵馬には「元左衛門」という名が見え、奉納年の後に「端午(たんご)」と書かれていることから、5月の節句に元左衛門が子や孫などの成長を願って奉納したものと考えられるでしょう。町内には「繋馬図」以外にも125点の絵馬が確認されており、最も多く残っていたのが野田の加茂神社で23点です。その他にも、庄の菅原神社、上津野の高木神社、中元寺の諏訪神社などでも確認されています。
これらの絵馬を描いた人物のなかには小学生の頃から絵を描くのが上手だったと伝わる井上紫城(いのうえしじょう)の名前が見られます。井上紫城は明治23(1890)年に添田町内で生まれ、絵馬のほかにも風景画を得意としたようです。繊細な筆使いで描かれた風景画は岩石城(添田町美術館)で展示中です。岩石城では、町内出身の画家として北村巌(きたむらいわお)の作品も展示しています。北村巌は大正10(1935)年生まれで、幼少の時から絵を好み、いくつもの展覧会に入選するほどの、画才に優れた人です。これら画家たちの作品は岩石城以外でも見ることができ、重要文化財の「中島家住宅」には井上紫城の屏風絵、今年の10月に営業を再開した「ひこさんホテル和」のロビーには北村巌の絵が飾られています。
年末年始を迎えるにあたり、普段は訪れる機会が少ない各地域の社寺で、地域にゆかりのある画家の絵馬などをゆっくりと眺め見てはいかがでしょうか。
文/西山紘二学芸員(商工観光振興課歴史文化財係)
参考文献:『福岡県の絵馬 第二集』福岡県博物館協議会・福岡県立美術館編(平成10年)
問合せ:役場商工観光振興課歴史文化財係
【電話】82-1236
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