「福岡アジア美術館ベストコレクション展」(来年4月まで開催)に展示されるアーティスト10人の作品を紹介します。
◆第4回 ナリニ・マラニ
10メートルを超える壮観な絵画で、色彩豊かに描かれた物語が左から右に展開しています。
色付きの大パネル7枚のうち1枚目は、イギリス人がインドの岸辺に到着した場面。つまり、植民地史の始まりで、現代のインド社会においてなお、その歴史が色濃く影を落としていることを暗示しています。続く3枚には、ギリシャ神話の王女メディアが夫に裏切られた悲劇に基づき、現代にも通じる男女の格差や女性の自立のドラマが表されています。5枚目には、西洋の科学技術がもたらす自然破壊の現状が、最後の2枚には、この作品を制作していた時に勃発したムンバイ暴動の惨劇が描かれています。
この作品は、1993年にムンバイで初上演された現代劇「メディア」の舞台背景として作られました。一つの作品の中で、いくつもの話が繰り広げられる様子は、まるで長大な演劇のようです。
作者自ら経験してきた多くの困難をテーマにした作品世界は、ダイナミックな表現とともに国際的に高く評価され、2013年に福岡アジア文化賞を受賞しました。本作は、彼女の代表作の一つです。
(学芸員 ラワンチャイクン寿子)
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福岡アジア美術館
Fukuoka Asian Art Museum
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