[連載]アジアのトップアーティストたち
4月9日(火)まで開催の「福岡アジア美術館ベストコレクション展」に展示されるアーティスト10人の作品を紹介します。
◆第9回 N.N.リムゾン
一糸まとわぬ姿の男性像が、無数の剣先を突きつけられる中、たたずんでいます。しかし、その表情はとても穏やかです。
作者は1957年生まれのインド出身のアーティストで、インドの豊かな宗教世界を基に、彫刻や絵画を制作しています。
引き締まった腰に広く立派な肩、端正かつ堂々とした本作の男性像の身体は、非暴力・不殺生を説くインドのジャイナ教の聖者像に原型を持ちます。一方、周りを取り囲む無数の剣は、インドに深い影を落としてきた民族・宗教間の対立と暴力の歴史を象徴しています。本作は、そのような状況の中で1991年に起きたインドの元首相暗殺事件を契機に制作されました。インドの近現代史に思いをはせたとき、無防備に剣先へと身をさらすこの男性像は、非暴力を唱え諸民族・宗教の融和を説いたインドの国父、マハトマ・ガンジーの姿にも重なります。
神秘的で緊張感のある独自の造形と、現代社会への深い思索が高く評価され、作者は、世界の美術界で多くの尊敬を集めてきました。不条理な世界でどのような「内なる声」を聴くべきか、本作は私たちに問い掛けているようです。
(学芸員 桑原ふみ)
Fukuoka Asian Art Museum
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