[連載]アジアのトップアーティストたち 最終回
これまで10回にわたって紹介した10人のアーティストの作品は、4月9日(火)まで「福岡アジア美術館ベストコレクション展」に展示しています。
◆第10回 ディン・Q・レ
軍用ヘリコプターが次々と海面に墜落していく様子がアニメーションで表現されています。戦争を想起させますが、攻撃する力はなさそうで、どこか滑稽でもあります。この作品の題材は、ベトナム戦争です。米軍によって戦線に大量投入されたヘリコプターは、ベトナム戦争の象徴とさえ言われました。
タイトルの「ピシュクン」とは、北米大陸先住民が狩りのためバッファローを追い落とした崖のことです。作者は、ヘリコプターの落下する様をバッファロー狩りに見立て、敗戦が濃厚となりベトナムからヘリで逃れようとする米国の姿を、皮肉を交えて描いています。
作者のディン・Q・レがベトナムで生まれた1968年は、まだ戦火が収まらず、戦争終結後もインドシナ半島の政情は不安定でした。
ディン・Q・レは10歳で米国に移住します。そこでは「ベトナム戦争」がベトナム人不在のまま偏った見方で語られていました。これに疑問を持つところから、彼のアーティスト活動が始まります。
現在国際的に活躍するレは、1990年代にベトナムに帰国後、非営利組織「サン・アート」を設立し、ホーチミンで故国の現代美術振興に寄与しています。
(学芸員 山口洋三)
Fukuoka Asian Art Museum
【電話】092-263-1100【FAX】092-263-1105
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