福岡市長 高島宗一郎×歌舞伎俳優 松本幸四郎×歌舞伎俳優 尾上松也
※鼎談(ていだん)とは、3人で会談をすること
明けましておめでとうございます。博多座(博多区下川端町)では、平成11(1999)年の開業以来、毎年歌舞伎公演が行われています。新年に当たり、歌舞伎俳優の松本幸四郎さんと尾上(おのえ)松也さん、高島市長が未来への思いを語りました。
●新たな可能性への挑戦
市長:2月に松本幸四郎さん、尾上松也さんのダブルキャストによる歌舞伎NEXT『朧(おぼろ)の森に棲(す)む鬼』が博多座で上演されます。幸四郎さんは1年ぶり、松也さんは8カ月ぶりの博多座での舞台です。今回の歌舞伎NEXTとは、どのようなものですか。
幸四郎:私自身が「劇団☆新感線」(3面参照)の作品にいくつか出演していたことがきっかけで、生まれた歌舞伎です。新感線の世界観と歌舞伎を組み合わせて、新しいものを創り出そうと始めました。
市長:松也さんは、新感線の舞台で演じる幸四郎さんを客席から何度もご覧になったそうですね。
松也:新感線は、私も大好きな劇団です。新しいことに挑戦される幸四郎さんが本当に格好よくて、いつか自分も出演したいと熱望していました。新感線の別の演目で主役を務める機会をいただき、今回の出演にもつながりました。
市長:福岡市では平成27年から、次のステージに発展させるためのチャレンジをする「福岡NEXT」という取り組みを行っています。
幸四郎:本当ですか。歌舞伎NEXTが始まったのも同じ年です。ネクストつながりとは、驚きました。
市長:例えば、スマートフォンの普及で、私たちはいろいろな新しいサービスを受けられるようになりました。世の中がアップデートされていく中、行政だけが旧態依然というわけにはいきません。人口減少や少子高齢化を見据えて、行政サービスやまちを変えていくチャレンジが必要だと考えました。
幸四郎:歌舞伎NEXTにも、新しい可能性を探りたいという思いがあります。400年前に生まれた歌舞伎が今も生き続けているのは、先人たちが時代に合わせて変化させてきたからです。私たちがやるべきことは、お客様に舞台を見て感動してもらうこと。時代に敏感になって、工夫しながら新しいものをつくっていくことは、とても大事だと思います。
松也:「最近、歌舞伎はよく新作をやっているね」と言われますが、そうではありません。古典と呼ばれる演目も、元々は新作でした。その時代その時代で何を求められているのか、どんなふうに変化しなければならないのかを先人たちが考え、伝統を守りながら攻め続けてきた結果、今の歌舞伎があります。後世に残る作品を生み出すことは、俳優の大きな願望ですので、そのためにも常に挑戦をしていきます。歌舞伎NEXTには、そんな思いが込められています。
市長:行政も同じです。このまちをさらに住みよくして次の世代に引き継いでいくためには、良いものは残し、変えるべきところは変えていかなければなりません。新しい価値を創っていきたいという思いは、歌舞伎と共通しています。
●これまで見たことがないものを
幸四郎:歌舞伎NEXTには、ロックバンドと歌舞伎の音楽のコラボレーションや派手なアクションがあり、いい意味で歌舞伎の概念を裏切ることになるでしょう。疾走感のあるストーリー展開はとても刺激的です。
松也:新感線の舞台音楽のベースは、ロックです。何事にも挑戦していくロックの精神と歌舞伎は似ていると思います。この二つが合わないはずがありません。これまで聴いたことがないような音楽、見たことがないような演出にご期待ください。
市長:なんだかわくわくしてきました。公演が待ち遠しいですね。
幸四郎:博多座は、舞台の奥行きが広く高さもあり、大道具を使った場面の転換がスムーズにできます。博多座ならではの演出で、いろいろな作品を生み出せる素晴らしい劇場です。
松也:博多座の舞台に立てることは、本当に光栄で役者冥利(みょうり)に尽きます。舞台と楽屋がすぐ近くにあり、使い勝手が良いと俳優の間でも評判です。
市長:博多座が開場して25年、お二人にそう言ってもらえてうれしいです。ところで、市民の皆さんは観劇はもちろん、食事なども楽しみに来場されているようです。お二人にとって滞在中の楽しみは何ですか。
幸四郎:福岡にはおいしいものがたくさんあるので、行きつけの店も多いですね。今日は空港に着いてホテルに荷物を置いてから、速攻でラーメンを食べに行きました(笑)。
松也:私は以前、舞台で頻繁に福岡に来ていたので、多くの友人がいます。彼らと一緒にご飯を食べたり、お酒を飲んだりするのも楽しみの一つで、福岡に来ると、ふるさとに帰ってきたような感覚になります。
幸四郎:母の出身地でもある福岡は、私にとっても第二のふるさとです。
市長:きっと市民の皆さんも喜んでいることでしょう。ぜひ福岡での滞在を楽しんでください。
●このエネルギーを皆さんに
市長:最後に、公演を心待ちにしている皆さんにメッセージをお願いします。
幸四郎:『朧の森に棲む鬼』は、うそと欲望に支配される男の物語です。17年前に劇団☆新感線の俳優たちと一緒に、東京の新橋演舞場で演じました。今回は、歌舞伎俳優のみで演じます。個人的にも、同じ作品に再び出られることや、歌舞伎NEXTが博多座に初上陸することなど、感慨深いものがあります。主役のライを演じない回は、ライと対峙(たいじ)するサダミツ役で出演し、大量の水を使った滝の中での立廻(たちまわ)りや宙乗りなどの見せ場もあります。一丸となって取り組んでいますので、一致団結すると大きなエネルギーが生まれるんだということを感じ取ってほしいですね。
松也:歌舞伎NEXTというからには、公演を見終わった時に、次の作品も見てみたいと思っていただけるよう、一座で毎日懸命に汗を流してお稽古をしています。この熱量を一度といわず何度でも劇場で感じて、私たちと一緒に盛り上げていただけるとうれしいです。
市長:お二人の熱い思いに触れ、私も刺激を受けました。これからの歌舞伎界が楽しみです。2月の公演も大いに期待しています。
○松本幸四郎さん
昭和48(1973)年生まれ。54年に初舞台。56年に七代目市川染五郎を襲名。平成30(2018)年に高麗屋三代襲名披露公演『壽初春大歌舞伎』で十代目松本幸四郎を襲名
○尾上松也さん
昭和60(1985)年生まれ。平成2(1990)年に初舞台。ミュージカルやドラマ・映画などにも出演するほか、新作歌舞伎『刀剣乱舞月刀剣緑桐(つきのつるぎえにしのきりのは)』では演出も務めた
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