■「TUNAGU II」とは
人と人、心と心をつなぐ、世界とつなぐ―人権尊重のまちづくりの一環として、さまざまな人権問題について市民の皆さんと共に考えます。
■“背中(せなか)”の年賀状(ねんがじょう)
そのだ ひさこ
今年も数十枚の年賀状をいただいた。数年ぶりに、懐かしい名前の年賀状があった。ある私立大学で20年近く、「人権・部落問題論」を講義した教え子の一人、Mさん(男性)だった。うれしくなり、すぐ裏返してみた。一瞬、その写真にわたしは釘付けになった。そこにあったのは、Mと連れ合いさんとその真ん中の子ども、3人の背中(後姿)だった。何という!「先生、元気か?」と書いてあったが。はじめてもらった背を向けた年賀状。その「背中」の意味を一瞬で私はこころ裂かれる思いでのみこんだ。すぐ電話して声をきいた。懐かしく元気な声だった。お互いに「会いたい、会いたいね」と長電話をした。卒業してとっくに、20年近くがすぎていた。
Mは在学中の部落問題の講義のあと、後ろの席からすたすたと私の前まで歩いてきて「先生、俺は今、結婚差別の真っただ中やが!」といった学生である。その後、私は彼の話を聞いた。高校時代からつきあっている彼女だが、部落差別のいわれのないことなどをどんなに懸命に話しても、彼女の母親が絶対に反対であること、Mが電話するとガチャン!と切られてしまうことなど。在学中何度もMとは話をした。ついに、彼女にも会いたくなって、新幹線に飛び乗って会いに行った。とてもにこやかで、素敵な彼女だった。二人から結婚の相談もあった。「10年もあなたについてきてくれた彼女のためにも…」くらいしか言えなかった。数年後、Mは結婚したが、母親は決して許すことは無かった。それは孫ができた今でも。Mは今、子どもに恵まれ3人で暮らしながら、ある地域の部落解放運動を頑張っている。
彼女の母親は多分、私と同世代かさほど変わらない年齢だろう。部落問題が教科書に載ったのは1972年であり、「解放令」から101年後のことである。したがって、私のような60代以降の高齢者たちは小、中、高、大学と一度も教育によって部落問題について、習っていない世代である。一度も学んでいないということはただ「無知」というだけではない。誤解を恐れずに言えば、江戸時代から続いてきた偏見や、間違った知識が自然に刷りこまれているということに他ならない。
3人の“背中”の年賀状。その「ノン!」の強い意志と哀しみの深さを、私は決して忘れることは無い。
■人生の大きな節目に
同和問題の解決は、国民的課題と言われています。その解決のために2016(平成28)年に「部落差別解消推進法」が制定されましたが、この法律ができる過程の中でも、結婚差別が現存することが挙げられています。2021年の福岡県民人権意識調査の「同和問題の中で人権が特に尊重されていない出来事は?」との問いに「結婚問題で周囲が反対すること」という回答が一番多く約60%もありました。
結婚や就職は、人生の大きな節目です。その節目で、苦悩する人々をつくっているものは、社会の中にまだ存在する差別意識です。日本国憲法に保障された「結婚は両性の合意によってのみ成立する」という条文のめざすものが何であるか、私たちは同和問題における結婚差別を通して、愛情、結婚、家族というものについてより深く考えていきたいものですね。
問合せ:教育政策課
<この記事についてアンケートにご協力ください。>