【CLOSE UP】episode2 行橋の農を護(まも)り継ぐ者たち 農業に新しい風を—
◆CASE1 アグリプロ株式会社
米、麦、サラダほうれん草
◇常識を覆す 農業における働き方改革
農業を始めとする一次産業の就業率が低い理由として、「農業=大変な職場」という固定観念が植え付けられていることが考えられます。
皆さんは、農業の3Kをご存じでしょうか。「きつい、汚い、危険」と言ったマイナスのイメージで、表現されている言葉です。
天生田(あもうだ)にその固定観念を覆す会社、アグリプロ株式会社があります。米や麦のほか、サラダほうれん草を育てる農業法人です。代表を務めるのは、松蔭利幸さん。
上の写真(本紙参照)は、アグリプロの事務所兼休憩所です。そこは、まるでお洒落なカフェ⁉松蔭さんが焙煎した珈琲豆と、淹れたての珈琲の香りが立ち込めます。
「和(なごみ)」を経営理念として掲げる会社は、従業員の働き方改革を率先して行っています。
非常勤の職員含めて29名。女性の割合が多く、とりわけ40代半ばの子育て世代が多いことにまず驚きます。「子育て世代のお母さんたちにがんばってもらいたい。女性は、“職場でも家でも仕事”という人が多いのでは?家庭との両立を積極的に応援したい。」と、従業員の働き方を重視しています。
アグリプロのシフトは、なんと9パターン。週1勤務の人、1日2時間勤務の人など、働き方は様々です。子どもが急に熱が出たというときも、休みやすい環境を作っているそうです。
この休憩スペースも、「農業=大変な職場」というイメージを払拭するため、楽しく働きに来てもらうための工夫です。
◇未来へ繋ぐ 持続可能な農業を志す
代々、米農家として知られている松蔭家ですが、農家を継ぐつもりはなかったそうです。航空自衛隊へ就職し、その後パイロットの資格取得と語学習得のため、2年間渡米。帰国後、民間の航空会社でパイロットとして活躍していました。
決め手は父親の一言。日頃から弱音を吐かない父親が、「もう、きつい・・・」。この一言をきっかけに、農業を継ぐことを決意したそうです。
ただし、継ぐからには中途半端なことはしたくない。法人化し、設備投資をしっかり行い、最新の技術も取り入れ、きちんと販路を開拓すること、異業種が当たり前に行っていることを、農業でも実践することを松蔭さんは意識しました。
「田んぼで米作り」は当然のことですが、松蔭さんは、「田んぼで農業」を掲げました。米だけではなく、野菜作りも行うことで可能性が広がります。10年先を見据え、人がやっていないことをやることで、可能性やニーズを引き出そうと考えたのです。そこで行き着いたのが、高度環境制御施設でのサラダほうれん草栽培です。
◇成功の秘訣は、難しいことからのチャレンジ
何かにチャレンジしようとしたとき、仕事にしろ、勉強にしろ、まずは簡単なものから始めようと思うことが多いのではないでしょうか。松蔭さんがまず着手したのは、3,744平方メートルにもおよぶ大規模なハウスの建設でした。膨大な初期投資は、簡単なものではありません。また、ハウスで水耕栽培を始めるにあたり、作りやすいものからではなく、最も難しいものから始めたことが成功の秘訣と言います。最も難しいサラダほうれん草から始めたおかげで、よりレベルの高いノウハウを習得でき、ほかの野菜に応用が利き、可能性が広がります。
◇やりがいは、誤魔化しがきかない第三者の評価
松蔭さんが農業でやりがいを感じているのは、「第三者からの評価」だそうです。
サラダほうれん草は栽培を始めてまだ2年半ですが、100名以上の医師が評価に携わり、一定の基準以上の推奨意向が得られたものだけが認定される、AskDoctorの認証マークも取得。認証取得の際の採点は、100点満点中99点の高評価だったそうです。
また、取引先のセブンイレブンジャパンの担当者は、「アグリプロのような外気が入るハウスで、閉鎖型のハウスと同レベルに雑菌が少ないのは、あり得ない!」と驚きを隠しきれないほどのレベルを保っているそうです。
松蔭さんのハウスで、病気や雑菌が少ないことは全国で有名になり、今やコンサルタント業務も行っています。こうした第三者からの評価や信頼が、農業をやっていくうえで1番のやりがいとお話されていました。
◇名前に恥じぬよう儲かる農業、自分がお手本に
社名「アグリプロ」は、「農業のプロをめざす!」という想いから付けられました。農業的な技術だけではなく、経営的な手法に関しても、日々研鑚されています。冒頭にもありましたが、農業は大変な上に儲からないと思われ、全国的に就業者が少ないことが問題視されています。松蔭さんは、次世代に農業を繋いでいくために、自らがお手本になろうと志高く取り組んでいます。大規模な複合農業を少人数で効率良く行うため、積極的にICT技術を活用したスマート農業や新しい栽培方法を導入しています。
松蔭さんは今後について、「これからは、環境にどれだけ配慮しているかが問われる時代。電気・残渣物・水など課題は多い。エネルギーの自給自足が理想。九州大学とも連携し、最新技術の実証実験も行っている。技術の活用、安定した雇用の確保、販路の開拓を確立し、儲かる農業のお手本になりたい。農業を未来に繋いでいきたい。」と語ってくれました。
さらに、「農と福祉の連携」にも積極的に取組み、障がい者の方が生き生きと働ける場所を作りたいと展望を覗かせていました。農業の現場に新しい風をもたらし、モデルケースとして先導するアグリプロから今後も目が離せません。
(本紙写真)
・前職はパイロット。異例の経歴を持つ、アグリプロ(株)の代表:松蔭利幸さん。
(1)生で食べることができる、サラダほうれん草。一般的なほうれん草に比べ、茹でこぼさないことで、ビタミンKやビタミンA、鉄分などの栄養素が多く摂れる。
(2)人工光・閉鎖型苗生産装置「苗テラス」
(3)密閉された空間で、温度管理・光照射・灌水などすべてを自動で行い、季節や天候に左右されることなく、いつでも・どこでも・簡単に丈夫で均質な苗を作れる装置。
(4)徹底した衛生管理のために、入念に行う清掃作業。
(5)育苗トレイから苗を外す作業。繊細な作業が求められる。
(6)栽培ベッドの清掃と洗浄・消毒作業。根の欠片ひとつも残さないよう、徹底した作業が必要で、これができていないと雑菌が増えていく。
(7)サラダほうれん草はとてもデリケート。収穫したものはすぐに10度以下の環境で冷蔵。人の手(約36℃)で長時間持たないことを徹底。
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