行橋市立中京中学校に、陸上競技の全国大会に25年間連続で選手を輩出する伝説の指導者がいます。保健体育教師の白石京(みやこ)先生(以下:白石監督)です。
白石監督率いる中京中陸上部は、昨年11月に開催された福岡県中学校駅伝競走大会で優勝。全国中学校駅伝大会に出場し第10位の成績を収め、京築地域初の快挙として報じられました。ほかにも、8月に同校出身、福岡第一高校3年生の中谷魁聖(なかたにかいせい)さんが、インターハイの走高跳で高校新記録と大会新記録を樹立し、優勝。さらに9月には、国スポで高校記録を更新するなど、教え子たちの活躍が各メディアを通して伝えられています。
指導者によって、指導力によって、子どもたちは変わる――。市内は元より市外からも彼女の指導を求め、生徒が集まっています。多くの生徒が支持する、その指導方法とは。今回の特集では、白石監督の指導方法やマインドにクローズアップ。
◆誰と出会うかによって人生が変わる
白石監督は長崎県で生まれ育ち、中学時代はテニス部に所属していました。陸上を始めたのは、長崎日本大学高等学校に進学してからのこと。走り幅跳びの選手としてインターハイにも出場しました。
幼い頃から教師である父の影響を受け、自身も教師をめざしていました。中学校の教師を選んだのは、高校で全国大会という大きな舞台を経験させてもらい、自分も教え子に経験させてやりたいと思うようになったことがきっかけだそうです。
指導者となりましたが、初めから全てうまくいったわけではありません。大きな転換期を迎えたのは、教員8年目のこと。今でも師と仰ぐ大阪教師塾の塾頭である原田隆史(たかし)さんとの出会いです。原田さんの下には、全国から同じ志を持つ教員が集まっており、白石監督は月に2回程度大阪に通っていました。
以前は「楽しくやる」ことを信条にしていましたが、大阪教師塾で目標達成の重要性を学び、「陸上を通して自立する人間を育成していきたい」と指導理念が変わっていきました。
「誰と出会うか」「どんな指導者と出会うか」ということも、人生において大変重要な要素であると気付かされます。
◆目標設定と達成、成功体験が人を育てる
陸上の指導において白石監督は、目標をはっきりと設定し、やればできるという成功体験や達成感を大切にしています。クリアすればまた次の目標ができていくという仕組みを作り、子どもたちの成長を促します。きちんと目標を設定することで、目標達成のために何をすべきか生徒自身が考えるようになります。ここで生徒とのやりとりに使われているのが「陸上目標設定シート」(次頁で紹介)です。一人ひとり明確な目標を設定させ、そのためにすべきことを部活動だけでなく、生活面等についても記します。記すことで心に残ります。うまくいかないときも、シートを見直すことで、やる気をフィードバックします。
結果が伴ってくると、生活態度にも変化が表れます。自然と挨拶や身だしなみ、整理整頓など、子どもたちが変わっていきます。
◆陸上と思うな、人生と思え
目標設定や達成、達成のための行動は、陸上においてだけ重要というわけではありません。自ら動く(=自立する)ことを養うことで、勉強や社会生活にも繋がっていきます。
とりわけ、子どもたちに白石監督が声を大にして伝えているのは、「陸上と思うな、人生と思え。」という言葉です。中学生にとってなかなか実感が湧きにくい言葉かもしれませんが、「目標設定→行動→達成」のサイクルを繰り返しているうちに成功体験が増えていき、陸上だけではなく、自然と自分の人生に反映するようになります。この指導によって人生が変わった教え子たちのエピソードを次頁で紹介しています。
また、白石監督は自身にも「教師と思うな、人生と思え」と言い聞かせ、指導に就いています。教師は生徒の人生に大きな影響を与える存在です。知識を与えるだけでなく、人間としての成長や価値観の形成に影響を与える職業です。ただ仕事、職業と考えず、自分の人生ないしは子どもの人生と考えて指導に取り組んでいます。子どもたちが彼女の教えを吸収し、成長していく所以はここにあるのではないでしょうか。
◆NEVER NEVER NEVER GIVE UP!(絶対に 決して 決して 諦めない)
白石監督に、今後の展望についてお伺いしました。
「陸上競技が好きな子どもたちを、もっとたくさん育てていきたいです。現在は駅伝など長距離が目立っていますが、短距離でも、投てきでも跳躍でも全国や世界で活躍できる選手を育てたいと思っています。そして、『行橋』の名を陸上で全国に広めていきたいです。それには今後、本格的な部活動の地域移行が重要であると考えています。教員の負担軽減だけでなく、プロの指導による技術力の向上が期待できます。また、教員という仕事は、子どもたちの未来を切り拓くことができる、とてもやりがいのある職業です。私と生徒の関りを見て、教員をめざしてくれる人が一人でも増えてくれたらと願っています。『仕事と思うな、人生と思え。中学陸上と思うな、人生と思え。NEVER NEVER NEVER GIVE UP!自分に負けるな。』この気持ちを忘れずに、今後も突き進んでいきたいと思っています。」
◆PLOFILE
長崎県出身。高校時代、走り幅跳びでインターハイ出場。大学卒業後、教員となる(長崎県で14年間、福岡県で19年目)。泉中学校を経て、現在、中京中学校に在籍。陸上競技部の監督を務め、クラブチームのコスモスACでコーチとしても活躍。今年度のインターハイには、教え子4名が6種目に出場。
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