■第十二回 三尺三五平「さやに車 居合の名人 三尺三五平」
むかし、小坂が宿場町だった頃の話。三尺三五平という、その名のとおり体が三尺(約九〇センチメートル)くらいの人がいたそうです。体が三尺でも、五尺(約一五〇センチメートル)もある刀をさして歩いていました。五尺もある刀なので、引きずらないよう刀の裾に車輪を付けて、カラカラと引いて歩いていました。
三尺三五平が寄席に芝居を観に行った時、側に二、三人の侍が来てこう言いまいした。「何でこんな小さい、子どもみたいなやつが生意気に、長い刀のようなものを差してるんだ」と、たばこの吸い殻を三尺三五平の耳に入れました。吸い殻はとても熱かったはずなのに、三尺三五平はけろっとしていました。
芝居が終わって皆が外に出ると、たばこの吸い殻を耳に入れた侍が、ばったりと倒れてしまいました。なぜ倒れたのか、誰一人、見た人はいないし、斬った人もいない。皆、何が起きたのか判らずにいました。
それは、三尺三五平が、はっと、その長い刀で斬ったのでした。それが誰の目にも止まらない、早業だったという話です。
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