■早川の長者様
昔々、杉目に早川という長者様がいたったと。この長者様、蔵は三つもあって、下男下女を十人も使っている。たいそう裕福な長者様だったと。
何不自由のない暮らしをしていたったども、たった一つ。息子にもらった嫁に子どもが授からなかったと。嫁に来て、もはや三年が過ぎようとしているのに、子どもを授かる気配もないんだと。
「なんぼ美しい嫁様でも、跡取りができねぇんではなぁ」
「あの嫁様、見るからに華奢な体つきで、子どもが生めそうにねぇものなぁ」
「跡継ぎが生まれねぇでは、早川の長者様も息子の代でおしまいだどなぁ」
と陰で噂されていたったと。
長者様は、何とか孫を授けてもらいたいもんだと、鹿狼山に願掛けしたんだと。満願の夜、鹿狼山の神様が夢枕に立ったど。
「跡継ぎが欲しいのなら、嫁に精がつくように、鹿狼山のとろろ芋を掘ってきて、嫁に食わせてみろ」
と言ったど。さっそく下男下女を総動員して、鹿狼山に登らせてとろろ芋を掘らせて、とろろ汁にして嫁に食わせたと。釣師浜のカレイも食わせたと。
そしたら、嫁様に精がついて、だんだん元気になってきて、次の年には子どもが生まれたと。長者様の喜びはただ事ではなかった。そしたっけその嫁様、次から次へ子どもを産んで、双子も生まれたもんだから、十年で十一人も生まれたんだと。
そんで、今でも鹿狼山の名物はとろろ汁、釣師浜の名物はカレイなんだと。今が今でも、早川の長者様の子孫は、鹿狼山のふもとで栄えているんだと。
新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。
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