■げんべぇてぇ
秋になるといろいろ聞こえる虫の声。その中に悲しい声で「げんべぇてぇ、げんべぇてぇ、裾とって肩つげ。」
って鳴くげんべぇてぇって言う虫がいるのをしってっかい。
昔々、ある所に気立ての良い美しい娘がいたったと。
その娘、手先が器用で、縫物が上手なもんだから、着物の仕立てなどをしながら暮らしていたったと。
娘の縫った着物は美しくて着やすいと評判だった。その評判がお城にまで聞こえたと。
ある時、その評判を聞きつけた殿様、娘の縫った着物を着てみたいと言い出したと。
娘の所に立派な布が届けらった。
「こだりっぱな着物を縫ったことないがら。」
と娘がなんども断ったげんと、お殿様は承知せず、とうとう娘はお殿様の着物を縫うことになったと。
昔から、反物を裁断するときは「七度確かめて一度に裁て」って言うんだ。寸法に間違いがないか七度確かめて、間違いが無いと思ったら、一度で裁ってしまえと言う教えだ。
娘は緊張していたったんだべな。いつもなら間違うはずがないのに、なぜか裁ち間違ってしまったと。見ごろの寸法ちんと足りなかった。
「大変なことしてしまった。取り返しのつかないことをしてしまった。なじょしたらいいべ」
と娘は思い悩み、その夜、川に身投げをして死んでしまったと。
親たちの悲しみは、傍目にも気の毒なほどで、毎日泣き暮らしていたったと。
ある夜のこと。泣いている親達の耳に娘の声が聞こえたと。
「げんべぇてぇ、げんべぇてぇ、裾とって肩継げ。げんべぇてぇ」
親たちが声のする庭に出てみたが、そこには娘の姿はなくて小さな虫が鳴いているだけだったと。
「おらん家の娘、こんな小さな虫になって、反物の裁ち間違いをしねぇようにと教えるために、鳴いているんだべか。」
そう言って親たちは虫が鳴いている庭にしゃがみこんで涙をこぼしたと。
「げんべぇてぇ。べんげぇてぇ。裾とって肩継げ」
今でも秋になると悲しい声で鳴いている虫がいるんだと。
新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。
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