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町の昔話コーナー

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福島県新地町

■椿の婿様
昔々、水神沼と田中沼と木崎※1の松塚が水続きだった頃の話だと。
松塚の長者様のところに椿という美しい娘がいたったと。
年頃になって、ますます美しくなったものだから、あちこちから縁談をもってこられるようになったと。ほだども、どんなに良い縁談でも椿は首を縦に振らねぇんだと。
ある晩、おっか様が椿の部屋の前を通ったれば、中から椿の笑い声が聞こえるんだと。「はて?こんな夜更けに誰としゃべっているんだべ?」
不審に思ったおっか様、障子の隙間から覗き込んで見たれば、どこの息子なんだか、若々しいきりりとした侍と椿が話をしながら笑っているんだっけど。
男が帰った後はいつも縁側が濡れているし、日に日に椿がやせ細って行くもんだから、不審に思ったおっか様は椿に問いただしたと。
「お前、毎晩誰と会っているんだ?」
「どこの人かわがんねども、毎晩通ってくるんだ」
椿はすでに身ごもっているようだった。
心配になったおっか様は、磯の八卦おき※2のところに出かけて行って拝んでもらったっけ、水神沼の主が、夜な夜な侍に化けて娘のところに通っていることがわかったと。
「これは大変なことになった。一日も早くお払いしてもらったほうが良いべ。俺が拝んでやってもいいども、俺は水神沼の近くに住んでいるから、反対に大蛇にたたられっと困る。どこか遠くの…そうだなぁ…向屋敷の聖音寺※3の和尚にでも頼んで、お払いしてもらえ」と教えてくれたと。
さっそく聖音寺に出かけて行って、和尚にお願いして拝んでもらうことにしたと。
聖音寺の和尚が二度と大蛇に近づかないようにと、体いっぱいありがたいお経を書いてくれることになったと。ところが椿は身ごもっているものだから裸になるのを嫌がったと。皆がなんぼ説得しても裸にならないんだと。仕方がないから和尚様は着物の上からお経を書いてくれた。
「これで良し。もう二度と沼の主が近寄ることは無いべ」
おっか様も安心して家に帰ったと。
翌朝、椿が起きてこないものだから、おっか様が椿の部屋を見たっけ、布団はもぬけの殻。なんぼ探しても椿の姿がない。隣近所も頼んで皆で探したれば、屋敷の裏の川のほとりの椿の木にお経が書いてある娘の着物が引っかかっているのを見つけたと。
「さては、椿はお経が書いてある着物を脱ぎ捨てて、沼の主と一緒に水神沼にいったな…」
そう言うと親達は水神沼のほとりを必死に探し回ったと。村中の人を頼んで沼の中までさらってみたと。
ほだどもとうとう椿は見つからなかった。水神沼は波一つ立たず静かなままだった。あきらめきれない親達は、椿が帰って来るんではないかと、一年待ったが、帰って来る様子もなく、泣き泣き、残された椿の着物を棺に入れて喜満寺※4に葬って椿を供養したと。
※1 水神沼と田中沼と木崎の松塚 この話の水神沼は山元町の坂元、磯浜の近くに今もある水神沼を指します。水神沼の南(埓木崎)方面には昔、田中沼という沼があり、今は田んぼになっています。埓木崎にはかつて松塚という小字がありましたが、話の中では昔語りで伝わっているまま木崎として記しています。
※2 八卦おき 占いや祈祷を生業とする人。
※3 聖音寺 真弓の薬師堂の管理をしていたのが、聖音院とされています。現在は存在しません。
※4 喜満寺 町内には同名の寺、院の記録は見つかっていません。

新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。

問い合わせ:新地語ってみっ会
【電話】62-2441

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