■水無川
今は真弓の川※1に水が流れていないが、昔は木がうっそうと茂って水もとうとうと流れていたんだと。その頃の話だと。
昔々、上真弓の川南に源吉という夫婦が住んでいたったと。
ある夏の暑い日の昼下がり、どこから来たのか、ぼろぼろの衣を着た坊主が杖をつきながらとぼとぼと歩いて来たったと。源吉の家を見つけると門口に立って、「もうし。私は旅の者だけんと、道に迷ってこんなとこまで来てしまった。喉が渇いて仕方がないから一杯水を飲ませてもらえないべが。」
って丁寧に頼んだっけど。
家の中で機織りをしていた源吉の女房、機織る手も休めずに「おらん家では井戸なんてねぇ。裏の川の水を使ってんだ。裏の川の水でも飲め。」
とすげねぇ返事をしたと。
「裏に川があるんだべが。」
と坊様が聞いたれば「ああ。うっしょ※2の川に水がいっぺあっから、がらり飲んだらよかんべ。」
と答えたと。
「ほんではその川の水、全部飲んでもいいんだべが。」
と坊様が聞き返すと、女房は顔も上げないで「飲まれっこったらガラリ飲め。」
と答えたと。
すると坊様は、裏の川に行って、しばらくお経を上げていたっけが、持っていた杖で川の石をトントンとたたいたと。
したら今まで流れていた川の水、さらさらと川底に吸い込まれて、ガラリなくなってしまったと。
それからというものは真弓の川は水無川になってしまって田畑も作れなくなったと。
源吉夫婦もとうとう暮らしてゆくことができなくなって、どこかに行ってしまったと。
源吉の家があった場所は、もう誰も住まなくなってしまったが、今でも源吉屋敷という地名だけは残っているんだと。
※1 真弓の川 上真弓地区には、水の無い川があります。
※2 うっしょ 後ろ
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