■嘘こぎ佐治兵衛(前編)
昔々、高田に嘘こぎ名人で石田佐治兵衛と言う爺様がいたったと。
ある時、この佐治兵衛にお城から呼び出しがかかったんだと。
「はて、なにか悪いことしたべか。なしてお城さ呼ばらっちゃんだべ。身に覚えが無えんだげんと。もしかしたら嘘ばかりこいでっから、お殿様にごしゃがれんであんめぁな。お手打ちにでもされたら、なじょすっぺ。」と心配しいしいお城さ上がったど。
見だごともねぇ広い庭を通ってこれまた見だごともねぇ立派な部屋さ通さっちゃと。めんこいお女中がお茶やお菓子を置いて行ったども、お茶もお菓子も喉を通らねがったと。しばらくすっと、すうっと襖が開いて、お殿様がおいでになったと。
「その方が佐治兵衛が。」
佐治兵衛はたっぴらこく※1なって
「ははぁ」
と、頭を擦り付けてお辞儀をしたと。
「佐治兵衛。お前は嘘をつくのがうまいというが本当か。」
とお殿様が聞くので、佐治兵衛は恐る恐る
「ははぁ。世間の皆はそう言うども、俺はなにも悪い噓をついだことねぇです。」
と申し上げたと。
「あはははは。何もお前を咎(とが)め立てするのにここに呼んだんでねぇ。お前の嘘を聞いてみだくて呼んだんだ。何か上等な嘘こいでみろ。」
って殿様が言ったと。
「ははぁ」
ほっとした佐治兵衛は、少し考えて、くそまじめな顔をしてこう言ったと。
「今、十八里※2も伸びている藤の花が見ごろでございます。」
「なんと。十八里もある藤の花ってがっ。十八里もあるんではさぞかし見事な藤の花だべな。それはぜひ見たいものだ。」
と、殿様は佐治兵衛を連れで、イリ山さ行ったと。殿様があだりほどり※3を見渡してもそのような見事な藤は見当たらねぇんだと。
「これ、佐治兵衛っ。藤の花はどこだ?どこさあんだ?」
って殿様が聞いたれば、佐治兵衛は、目の前にぶら下がっている藤の花を指差したと。ほんでもどう見てもその藤は十八里もあるようには見えねぇがったと。
「佐治兵衛。なじょに見ても十八里あるようには見えねぇべ。」
って言ったれば、佐治兵衛は澄ました顔して
「お殿様。こっちの木はクリの木でござりやす。あっちの木もクリの木でござりやす。こっちのクリ、つまり九里からあっちの九里までだから、あわせれば十八里の藤でござりやす。」
と言ったもんだから、お殿様は大笑いして、すっかり感心してしまったと。
(お殿様を感心させるほどの嘘をついた佐治兵衛。後半に続きます。お楽しみに)
※1 たっぴらこく 平たく、平らに。
※2 十八里 1里は約4km。18里は約72km。
※3 あだりほどり そこいらじゅう。近辺。近隣。
新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。
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