■嘘こぎ佐治兵衛(後編)
さて、前回のお話はクリ(九里)の木からクリ(九里)の木まで伸びる藤の花を十八里の藤の花と嘘をつかれて大笑いしたお殿様でした。あれからしばらくして、お殿様は暇を持て余して、また佐治兵衛の嘘を聞いてみたいものだと、お城に佐治兵衛を呼びました。今回はその時のお話。
「佐治兵衛。この前の十八里の藤では、お前にまんまとやられてしまったなや。今日も何か面白い嘘こいでみろ。」
って、お殿様は言ったと。そしたれば、佐治兵衛は、真面目な顔で、「お殿様、今日は嘘はこがれません。」
って言うんだと。それを聞いた殿様はおもしゃぐねぇ顔で、「それはまた、なじょなわけだ?」
と詰め寄ってこられたと。
佐治兵衛はますます真面目な顔をして、「お殿様。嘘こくにも、ただではこがんねぇ。嘘こぎの種を書いた本と言うものがあって今日はあいにくその本を家に置いてきてしまいやした。嘘こぎの本は家の戸棚にしまってあっから、誰か持ってきてくれねぇべが。」
ってこう言ったと。さっそく家老が早馬で佐治兵衛の家さ行ってみたと。そしたれば、留守番していた婆様が、「なぁにぃ、おらえのじっち、何語ってんだべ。嘘こぐ本だなんてどこさある、ほだものどこさもあんめぇしたぁ。」
って言ったと。家老が戻ってきて「嘘こく本なんぞどこにもないと婆様が言っておりやした。」
って申し上げたら、殿様が「なに?嘘こく本が無い?佐治兵衛っ。そちの妻はそのような本は無いと申したそうだが、これは一体どういうことだっ。」
ってごしゃいだと。佐治兵衛はしゃあしゃあとして「どういうわけもこういうわけもござりやせん。サラッとここらあたりから嘘こいで見たまででござりやす。」
ってしゃべったもんだから、殿様はまたも大笑いして「お前にはすっかりやられてしまったなぁ」
と感心して、相善東の萱場をご褒美として佐治兵衛にくれてやったと。佐治兵衛は「おればかり貰ったら憎まれっから真ん中の良い所はおれが貰うども、東は上の町さ、地獄堤の所は菅谷に、端の良い萱の取れるところは高田さくれっぺな。」
と、皆にわけてやったと。
佐治兵衛という人は、このように皆にひまたって※1世話する反面、こんだ気に入らねぇ人には、よくよく仇する人だったと。尽くすことは尽くすども、仇したこともきつかったんだべな。ほだから「畑に地しばり※2、田にビルモ※3、高田に佐治兵衛無けりゃよい」
と歌に歌わっちゃ人なんだと。
※1 ひまたって (丁寧に)わざわざ時間をかけて。
※2 地しばり 岩苦菜の別称。タンポポに似た花を咲かす。地面を這うように茎が長く一面に伸びることから地しばりと呼ばれる。
※3 ビルモ ヒルのこと。
新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。
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