民具とは、私たちの日常生活の中で用いられる用具や造形物などを広く指す言葉で、人びとの生活と切り離すことのできないものです。
今年、新一万円札に採用されて話題となった渋沢栄一(しぶさわえいいち)の孫、渋沢敬三(しぶさわけいぞう)(1896~1963)は民具研究の第一人者であり「民具」という言葉の名付け親とされています。敬三は多くの地域を調査し、民具が人びとの暮らしぶりを明らかにするための重要な資料であることを示しました。
民具の例として、農作物を育て、収穫するために使われる農具があります。特に白河地方は昔から米づくりが盛んだったため、さまざまな古い農具が残されています。写真は白河の農家で使われていた唐箕(とうみ)という農具で、全長1.5m、高さ1.2mほどもあります。秋に田んぼから収穫し、脱穀(だっこく)をした米を選別する作業に用います。横に付いているハンドルで中の風車を回しながら、もみ殻などが混ざった米を上から注ぐと、米よりも軽いもみ殻やちりなどが風の力で吹き飛ばされます。
唐箕は江戸時代から近代にかけて普及し、各地の農村で見ることができました。しかし、現代では電動の機械に作業が集約されたため使われなくなり、その用途を想像することすら難しくなった民具のひとつといえます。
暮らしの中で用いられる道具は時代によって移り変わり、改良、あるいは刷新されていきます。人びとの記憶とともに蔵や納屋に眠る古い道具には、先人の生き様を知る手がかりが残されているのです。
問合せ:文化財課
【電話】 2310
<この記事についてアンケートにご協力ください。>