■新鮮でおいしい魚を届ける 相馬の漁業は歩みを止めない
相馬双葉漁業協同組合(以後、相双漁協と表記)は、令和3年4月にこれまでの「試験操業」から「拡大操業」へ移行し、「本格操業」へ向けて段階的な漁業復興を目指しています。令和5年度には、震災後初めて同漁協管内の水揚げ量が5、000トンを超えました。一歩ずつ復興に向けて進んでいく相馬の漁業の今を伝えます。
◆新しい時代を生きる、相馬の漁業者インタビュー
東日本大震災前から相馬市で漁師をしている斎藤さんと、震災後に父の後を継いで漁師になった菊地さん。漁師として感じる現在と未来への率直な思いを伺いました。
斎藤智英さん:相双漁協青壮年部部長。さし網漁を行う。タチウオ、スズキ、タイなどを獲る。タチウオは塩焼きや刺身のあぶりで食べるのがおすすめ。
菊地栄達さん:相双漁協青壮年部副部長。底びき網漁を行う。獲れる魚種はイカ、タコ、メヒカリ、カニ、キンキ、エビなどさまざま。取れたてのイカで作った塩辛が好き。
―漁師という仕事の魅力を教えてください。
斎藤さん:毎回違う条件の中で漁に出て、風だったり潮の流れだったりを読んでいくのが魅力っていうかね。年に何回かしかないけど、当たったときの感覚が楽しい。
菊地さん:毎日が競い合いみたいな、それがすごく楽しいところ。そして取った魚が評価されるとうれしいんだよね。
―震災前と震災後で感じる変化などはありますか?
菊地さん:一番は魚の鮮度が変わりつつあって。震災前の底びき船は、千葉県沖や宮城県沖まで、泊まりで行って、数日後に魚を出荷していた。今は日帰りで漁の数時間後には出荷しているから、すごく鮮度が良くなっている。それは評価してもらいたいと思う。
斎藤さん:震災前は、毎日漁に出ていたけど、毎日獲っていると漁場がだめになる。以前は、販売規格にそぐわない魚も獲れていたため、そういった魚は安く余っている状態が続いていた。今は毎週天候を見ながら、出航日を決めて出ているからこそ、効率よく獲れていると思っている。それにある程度制限した方が、資源量も価格も安定する。
菊地さん:震災前と比べると、大きな仲買業者は残ったが、小規模な仲買業者が極端に少なくなった。今後、販売や流通の課題解決に向けて検討していく時期に来ていると思う。
―これから相馬の漁業は、どう変わっていきたいですか?
斎藤さん:漁の日数をある程度限定して水揚げ量を調整するような、時代に合わせた操業が必要だと思う。
菊地さん:資源も無限じゃないから、獲れないこともあるけれども、いるうちに全部獲ってしまおうとかじゃなく、来年、再来年にも残すつもりで、資源管理していくのが今の世界の流れだと思うのね。震災から10年過ぎて、昔に戻すのではなくて、新しい形態を作っていきたい。ライバルを蹴落とすのではなく、助け合って行く意識に、若い人が変わりつつある。それを、20年、30年経ったときに完成形に持っていけたら。
それから、相馬でもメヒカリが多く取れるけど、メヒカリはいわき市の印象が強くて、欲しい人はいわきに買いに行く。それは強みだよね。相馬もそうやって変わっていけたらと思うけどね。
斎藤さん:相馬だと、トラフグに限らず、ヒラメとかな。常磐ものって売り出しているけど、常磐っていうと茨城まで幅広くなるから。
菊地さん:だから、常磐ものの中でも突出させて一歩抜け出せたらいいのかなって。
○春
アサリ:4月~8月ごろ
メヒカリ:10月~6月
○夏
ホッキ貝:6月~1月
タチウオ:7月~12月
○秋
シラス:6月~12月
マイカ:9月~1月、6月
○冬
トラフグ:10月~1月
ヒラメ:通年
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