■振り返ると80代 伊藤 廣(北北口出身)
上京して半世紀が経ち、故郷の思い出は薄れていくものもありますが、一方で、鮮明に覚えている思い出もあります。曲がりくねった川、ときどき暴れる川、そして青々と繋がった緑豊かな山々。私はここに育ちました。昭和初期の、食料の少ない時代に健康に育ててくれた両親には感謝でいっぱいです。
私は、青森発上野行きに片道切符で上京しました。上京する時、母親に「東京の人たちには勝てないよ」と言われたのを覚えています。
不安と希望が入り混じった心境の中、夜行列車の中で食べたおにぎり。海苔もなく朴ほおの木の葉っぱで包んだ塩おにぎり。中には梅干しがポツンと一個入っていて、列車の中で買った弁当よりも美味かったです。
上野に着いて駅前の宿に泊まりました。宿の女将さんから三畳一間のアパートを紹介してもらい、最初に教えてもらったのは、電車の乗り方でした。教えてもらった通りに電車が来るのを待っていると、隣にいる人が待っていればすぐまたここに電車が来ると教えてくれました。
採用試験に行くとき、道がわからない私に、見知らぬ人が行き方を教えてくれ、遅れることなく会場に着くことができました。数日後、採用通知のハガキが届き、母親が驚いていました。
あれから半世紀。私を育ててくれた秋田と東京には感謝しかありません。育ててくれた二つの故郷。これから何を恩返ししようか。
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