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ふるさとへの便り

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秋田県東成瀬村

■「むべなるかな」青い実「ムベ」に続きが。
先刻承知の青い実「ムベ」。そろそろあの青い実が装いをしている頃かなと。アケビ(ムベ)の色合いが気になり、散歩にかこつけてそっと見に行く。生け垣と一体化したムベはその実を赤紫色に変身させていた。実は熟しても割れることのないムベ。形も色も故郷のアケビとは凡(およ)そ似つかぬムベ。それでも「アケビ」と言われれば…ひとり言を言いながらながめていると、生け垣の向こうに家人の気配を感じる。前々から「ムベ」のことを聞いてみたいと思っていた。どうやらその思いが叶いそうである。気配に誘われるように「こんにちは」と声をかけたところ、ほどなく門の開く音がしたかと思うとご年配の男性が顔を出した。「何ですか」と。ムベのにわか知識を隠しながら「これはアケビですか」と聞いてみると、「そうですよ」と和やか(にこやか)な返答の後に「ムベ」と教えてくれた。ふる里のアケビの話をしたら、「どこ」と聞かれた。「秋田です」と答える。すると、笑いながら「私も秋田、横手だよ」と言う。横手につられるように「東成瀬村」が口を衝(つ)いて出る。しみじみとした声で「ひがしなるせ…」かと。私の顔を見ながら「増田だよ」とつけ加えた。初対面なのだが、故郷の距離が思いもかけない会話の弾みとなった。と言っても、「ムベ独演」に楽しくつき合わされた格好となったが。
不老長寿のフルーツと言い伝えがあるムベ。〝歴史は古く天智天皇の時代まで遡る。ある日、狩りに出かけた天智天皇は、そこで8人の子供を持つ元気な老夫婦に出会い「なぜ元気なのか」と尋ねたと。老夫婦は「この果実を毎年食べているからです」と、果実(ムベ)を差し出したそうだ。その果実を食べた天智天皇は「むべなるかな(もっともであるな)」と答えたという。それから「ムベ」と呼ばれるようになり、今でも「ムベ」は皇室に献上されている果実であると〞よどみない話し振り。生け垣に関心を示すと、ムベの生け垣は一本のツルから成っていると誇らしげに語る。「アケビらしからぬアケビの話」はここからとばかり熱を帯びてくる。「アケビですか」の問いから、気がつけば、小一時間ほどが過ぎていた。
気になる食感を尋ねてみる。熟しても実が割れないムベは切って中身を食べる。アケビのように種も食べて、ぺっぺっと吐き出すと笑う。皮は無論、葉、茎、ツルも食べられると。
ムベを知り尽くした「増田」の生まれ。にこやかに話す笑顔が印象的だった。

toko

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