絵画作家・山内地域出身 永沢碧衣(あおい)×横手市長 髙橋大
自ら狩猟免許を取得し、狩猟者としての経験をもとに絵画を描く永沢さんに、人や自然、生物の『生命の循環』を表現することについて語っていただきました。
市長:このたびは新春対談の機会をいただき、ありがとうございます。横手市を拠点に若手絵画作家として活躍されている永沢さんは、人口減少が続く当市に希望を与える存在だと思っています。永沢さんは、人と動植物との関わりを表現した絵を描かれています。本日は『命を描(えが)くこと』についてお話を伺います。
■美術への道
市長:絵画作家を目指したきっかけを教えてください。
永沢:幼い頃から絵を描くことが好きで、祖父や父と山へ行き、釣りをするなど自然に触れることも好きでした。本格的に絵画に触れたのは、高校生の時。美術部に所属していた私は、福島県で開催された『全国高等学校総合文化祭』に参加し、そこで、人の心を動かす芸術のエネルギーに圧倒されました。また、東日本大震災後、元気を失っている被災地の方々にとって、絵や音楽などクリエーティブなものが重要であることも知り、美術の道を目指すようになりました。
■マタギ文化との出会い
市長:狩猟免許を取得したきっかけはどのようなことだったのでしょうか。
永沢:大学の卒業制作で『マタギの里』で知られる阿仁町を訪れたことです。そこでマタギの文化に触れ、自分も同じ目線で、獲物を授かり、解体・調理し、食して、消化するといった一連の過程をできるようになりたいと思い、狩猟免許を取得しました。マタギにとって『ヒトや熊や魚、山菜などの全てが、山ノ神=自然からの授かりものである』といった価値観があります。山からの授かりものは自分たちが使う分だけ、山から分けていただくといった精神性を学びました。
市長:作品にはどのような影響を与えたのでしょうか。
永沢:有害駆除事業に携わってから、処分することになる毛皮や内臓など食べられない素材も何かに生かせないかという悩みに直面しました。絵を描く際、市販されている画材の膠(にかわ)(※)を岩絵具(いわえのぐ)と混ぜて使用しますが、目の前にある動物の生きざまや生死に触れた上で、彼らを描きたくなる衝動に対して、見知らぬどこか離れた土地の異なる種の動物で描いていくことに、段々と違和感を覚え始めました。
※牛や豚などが混ざった動物性タンパク質
市長:それで熊膠(くまにかわ)を自作したんですね。
永沢:絵画作家と狩猟者、両方の立場である自分だからできることを模索した結果ですね。熊の毛皮から膠を自分で抽出し、『熊で熊を描く』技法にたどり着きました。熊が生きてきた背景に思いを馳(は)せながら、彼らが生きていた証(あか)しを後世まで残すような気持ちで、最初の一枚を描きました。
市長:命を形として残す。永沢さんの作品における付加価値の一つかもしれませんね。
■『VOCA賞』を受賞して
市長:『VOCA(ヴォーカ)展2023』大賞受賞。昨年は『第9回東山魁夷(ひがしやまかいい)記念日経日本画大賞』入選とご活躍されています。
永沢:ありがとうございます。19歳の頃、初個展を支援してくださった方が、秋田県のVOCA展推薦人でした。「いつかあなたもVOCA展に出品できるアーティストに」という言葉を胸に、社会人になっても変わらず絵を描き続けました。2023年に出品参加できることになり、VOCA展30周年という記念の年に大賞をいただきました。
市長:当時の言葉が相まって感慨深いですね。
永沢:VOCA展の作品は、制作のためにお借りした十文字庁舎のホールで完成したんです。あのホールがなかったら完成していなかったかも。
市長:それは当市にとってもうれしい受賞ですね。
永沢:受賞してからは、個人の力量だけでは成し得ないような舞台にお声がけいただき、日々挑戦の毎日です。
■個展で得られたこと
市長:五城目町で個展を開催したと伺いました。
永沢:はい。町の方にも協力いただき、11カ所を会場に作品を展示しました。県外や海外から来た方もいて、町に宿泊し、ゆっくりと会場を巡り、作品や秋田を堪能していただいたと聞きました。
市長:当市でも開催したいと思っているんですよ。
永沢:普段は観光資源に乏しい地域でも、空き家や古民家を、その空間ごと作品にしているところがあります。アーティストが滞在し、公開制作をするなどパフォーマンスの場が充実するといいですね。
市長:横手にも空き家が千件以上あります。
永沢:空き家などで、芸術祭のような期間を設けて作品を展示する場があることで、年間を通して人が行き来します。また、その空き家を地域で管理することで、地域の人たちの間に交流が生まれ、集いの場になったらいいなと。
市長:秘められた空間の中がギャラリーになるというのはいいですね。こうした作品を観賞した人の感想で何か気付かされることはありますか。
永沢:新しい気付きのために展覧会をしていると言っても過言ではないです。自分にない引き出しを求めるためには、まず自分のふろしきを全て開放します。「これって何」と言ってくれることが自分の気付きになることも。
市長:出会う人によって新たな作品が生まれるかもしれないですね。
永沢:そうですね。物づくりをしていて、視野が狭くなる時は、一度深く考え、考えたことを引き戻し、表現に昇華(しょうか)させています。なぜ好きなのかを追い続け、こういう表現に至っています。
■今後の展望
市長:今後、永沢さんの更なる活躍が期待されますね。
永沢:自然や生命の根源、感動の正体に少しでも近づきたくて活動を続けています。いつでも戻ってこられる『心のふるさと』を軸に、幅を広げた活動を地域の方たちと一緒に表現できたら楽しくなるだろうなと思います。
市長:当市も皆さんの『心のふるさと』となるような田園都市を目指します。本日はありがとうございました。
永沢碧衣(ながさわあおい)…秋田公立美術大学アーツandルーツ専攻卒業。人が向き合う自然や生命の姿を描く。
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