■蜘蛛(クモ)の糸
連休の初め、弁護士1年目に仲良しだった事務員さんが若くして亡くなりました。初夏の日、一緒に出掛けた仕事が早く終わり、少し寄り道してケーキを食べながら、互いの家族の話をしたことが思い出されます。怖かっただろうな、もっと早く電話すればよかったなと後悔ばかりです。
仕事も、早い方が良いはずですが、弁護士は待つことも多いです。裁判は1カ月置きに進むので、相手がどんな反論をしてくるか1カ月待ちます。依頼者や相手方の心境の変化をじっと待つこともあります。とりわけ、「司法ソーシャルワーク」という分野では、年単位で待ちます。
小説「蜘蛛の糸」では、天から1本の蜘蛛の糸を垂らして、カンダタを救おうとします。対して司法ソーシャルワークでは、弁護士、行政、福祉など、多職種のチームが、何本もの蜘蛛の糸の両端を一緒に持って網を作ります。空中ブランコの下に張る安全ネットのイメージです。
ネットがあれば、空中ブランコから落ちても大丈夫。ネットがあることで思い切ってチャレンジもできるはず。でも、このネット、信用してもらうまで時間がかかります。天から降りてくる糸のように、即効性のある上向きのものが好まれるからかもしれません。下に落ちたら二度と上がれないという恐怖心もあるでしょう。そもそも空中ブランコをこぎ出すのにも勇気がいります。だから、焦らずに、タイミングを見て声を掛け、時を待ちます。ネットに降りたら、またブランコに戻れるように、お手伝いもします。問題が多面的なので、解決にも多職種の人が関わる、それが司法ソーシャルワークです。
僕が今も弁護士を続けられているのは、あの事務員さんが蜘蛛の糸の一端を握っていてくれたからです。逆に僕は、少しでも彼女の蜘蛛の糸になれていたのか、自問しています。
志賀貴光(たかみつ)弁護士
法テラス鹿角法律事務所
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