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古河歴史見聞録

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茨城県古河市

■妖怪はうまいのか ー雷獣と夕立ー
○爪あとを残す妖怪
妖しげなモノたちを調べる機会が多かったためか、これまでも各地を訪ねては、河童(かっぱ)の手のミイラや、牛鬼(うしおに)のしゃれこうべなど、不思議なモノに出会うことがあった。ある町では、葬列を襲う火車(かしゃ)という妖怪を退治した折に残していったという爪を見せてもらったことがある。さすが、爪あとを残すとはよくいったものだ。

○雷の伝承と雷獣
そこで思い出すのが、雷の爪。雷といえば、古河周辺では「富士西の三把稲(さんばいね)」といって、富士山の西に雷雲が見えると、稲を三把刈り取るまでに雷雨がやってくるといわれた。それじゃあ雷は困るかといえば「雷が夏にたくさん鳴ると、秋は豊作」ともいった。でもやっぱり当たるとコワイもの。落雷が原因で火災になることもあり、雷よけの御札を貼るお宅もあった。市内のある家では、1月14日にヌルデの木で箸(はし)を作り、翌日小豆粥(あずきがゆ)に浸し神仏に供えた。雷が鳴るとこれを囲炉裏(いろり)で燃やして雷よけのまじないとした。身近なところでは、おへそを取られてはなるまいと、蚊帳の中にとびこんでは「くわばらくわばら」なんてことも。
ところで、雷の爪とは、さきの火車の爪なるものに似ている。仏説をとく『山海里(さんかいり)』(1852年)という書物には、京都のお寺の台所で発見された「雷獣」の爪が紹介されている。落雷があると、そこに現れるという雷獣は、日本各地に目撃談があり、その姿が記録されている。イヌのような、イタチのような、アナグマのような……、ところによってはタツノオトシゴのようなものも。曲亭馬琴(きょくていばきん)に至っては、足が6本だと図入りで紹介していますが、なんだか足が絡まって転んじゃいそう。

○うまいのか、いるのか
そんな雷獣は畑の作物を食べてしまうというので、雷や夕立より厄介だ。江戸時代の随筆を読んでいると、栃木県烏山地方では、そうした被害に遭わないためにも、春になると雷獣を捕獲するという話が出てくる。また、高知県では、春ごとに山の中で雷獣を討ち取り、食べるのだと書かれているものもある。そしてなんと、その味が海で獲(と)れるホシザメのようで、とてもうまいのだと。あの爪あとを残した妖しげなモノが「美味」であると記録されている……。もう、居るのか居ないのか分かりません。
明治時代、三遊亭花遊(かゆう)という落語家が演じた小話に「雷獣の話」とやらがある。雷獣鍋なる看板を掲げる店があるというので、うまいかどうかも分からず、入ってしまう。おいしくなかったらイヤだなと思い、値切って料理を注文するが、出てきた鍋をのぞき込むと煮立った湯だけ。オイオイ野菜も雷獣も入ってないぞと愚痴をこぼすと、店員「値切っているのだから、湯(ゆ)ぅ立(だ)ち(夕立)だけです」と。
江戸時代の食材辞典には、河童の特性をもった生き物が載っているものもある。ならば小話に過ぎない雷獣鍋ぐらいあってもよかろう、そして雷獣ぐらい居てもいいんじゃないかと、そんな広い心持ちになれるのである。それにしてもどんな鍋だったんだろうか。

古河歴史博物館学芸員 立石尚之

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