文字サイズ
自治体の皆さまへ

常陸大宮 市史 編さんだより vol.89

10/15

茨城県常陸大宮市

◆牛馬を守る神仏のお話
民俗部会 専門調査員
筑波大学人文社会科学研究科
歴史・人類学特任研究員
三津山 智香

はじめまして。民俗部会専門委員の三津山智香と申します。常陸大宮市史編さん事業では、生業(せいぎょう)の調査を担当しております。生業とは、農業をはじめとした暮らしを立てるための仕事を指します。自然にめぐまれた常陸大宮市では、地域ごとの特色を生かし、農業・漁業・林業・畜産業・養蚕業など、様々な生業が展開してきました。
現在、田んぼや畑を耕したり、荷物を運んだりするときには、農業用機械やトラックを用いると思います。しかし、ほんの数十年前までは、機械も車もありませんでした。そんなときに活躍していたのが、牛馬です。牛馬は農耕や運搬、厩肥(きゅうひ)生産などに用いられ、人々の生活に不可欠な存在でした。牛馬の健康や死後の供養を目的とした神仏も多く祀られています。今回は、そんな牛馬に関わる神仏の話をしたいと思います。
まず、路傍の石仏・石塔をみてみましょう。『山方の石仏石塔』[山方町文化財保存研究会編 1999]には「馬頭観世音」、「馬力神」といった、牛馬の守護に関わる神仏の石仏・石塔が江戸~昭和にかけて243基建てられていることが記されています(写真1、2)。旧山方町の石仏・石塔のうち、牛馬の守護に関わるものは約30%を占めます。なかには、軍馬として戦地へ向かった馬のために建てた「出征軍馬塔」もみられます。
『おおみやの野仏とその祈り』[大宮町歴史民俗資料館編 1995]には、牛馬の守護に関わる石塔・石仏は181基確認されております。これは、旧大宮町に建てられている石仏の12.9%に相当します。
石仏・石塔の建立以外にも、牛馬の健康を願った行事は複数行われてきました。たとえば、小正月には団子を16個つけた木の枝を、馬屋に祀ったオソウゼン様に供える「ミズノキ」という行事が行われました[美和村史編さん委員会編 1993 913-914頁]。オソウゼン様は主に東日本でみられる牛馬を守護する神です。また、4月17日には栃木県茂木町の松倉山上観音堂に参拝する「松倉さん詣り」が行われました。松倉山上観音堂は牛馬の守護にご利益があるとされ、お祭りの日には多くの参拝客でにぎわっていたようです。松倉山上観音堂境内の笹をとってきて、馬の病気のときなどに与えていました[美和村史編さん委員会編 1993 920頁]。牛馬をとても大切にしていた様子が伝わってきます。
生業に関する信仰は、養蚕に関わる蚕影神社、稲作に関わる田の神、山仕事に関わる山の神など、牛馬以外にもみられます。豊かな実り、仕事の安全、多くの収入といった、生活に直結した人々の願いがうかがえますね。
生業の方法や技術といった点だけでなく、信仰についてもお話を伺っております。ご存じの方は、ぜひ、教えてください。
※写真は本紙をご覧ください。

参考文献
大宮町歴史民俗資料館編 1995『おおみやの野仏とその祈り』大宮町教育委員会
山方町文化財保存研究会編 1999『山方の石仏石塔』山方町教育委員会
美和村史編さん委員会編 1993『美和村史』美和村

問い合わせ:文化スポーツ課 文化振興グループ
【電話】52-1111(内線343)

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU