◆紙漉(かみす)きについて、教えてください!
生活を営むための仕事を「生業(せいぎょう)」といいます。生業は一年の過ごし方や住居の形、信仰などに大きく関係します。また気候や地形、土や水の状態、生えている植物などにより特徴づけられます。茨城県北部では、久慈川や那珂川などの流域で、生業のひとつとして紙漉きが行われてきました。常陸大宮市で作られる「西ノ内紙」は水戸藩の特産品とされ、丈夫で水に強いことから商家の大福帳などに使われました。西ノ内紙はもともと職人による専業(せんぎょう)ではなく、農家の人たちが農閑期(のうかんき)にあたる冬に兼業(けんぎょう)で漉いていました。現在は、市内の2軒のお宅により伝承されています。民俗部会では、この紙漉きの調査を開始しました。本記事では、現在も紙漉きを伝承する「紙のさと」さんへ聞き取りした内容をもとに、調査の速報をお知らせします。
◇西ノ内紙の原料
西ノ内紙は、那須楮(なすこうぞ)の皮を原料とします。楮は12月から1月の寒い時期に収穫し、蒸して皮を剥ぎます。何度も繰り返して白皮にしたものが和紙の材料です。この楮を、かつてはコンニャク芋と一緒に畑作する農家が多かったといいます。コンニャク芋には藁(わら)などの日除けが必要ですが、楮をそばに植えると日除けや風除けになってくれます。また、楮の下草を刈る手間も省けるのです。現在はこの方法は見られず、職人さんにより楮畑で栽培されています。
また、楮の繊維を均一に広げるために、小美玉市で作られるトロロアオイの粘液を使用します。しかし2019年には、農家さんから生産中止にせざるを得ないほどトロロアオイの栽培が困難であるという訴えがあり、保護の必要性が再確認されました。
◇新たな製品
西ノ内紙を使った新たな製品も誕生しています。例えば、紙布(しふ)で作られた衣服があります。この紙布を織る糸にするため、通常の西ノ内紙より薄い和紙の漉き方が考案されました。
また、2023年には西ノ内紙で作られたマネキンが発表されました。和紙製マネキンは通常より大幅に軽量化され、扱いやすくなりました。さらに近年はSDGsという言葉が聞かれますが、和紙製品は漉き返しといって、水に浸して戻すとリサイクルすることができます。
和紙作りは、紙漉きだけではなく、材料の栽培、皮剥ぎや汚れを取り除く準備作業、道具のメンテナンス、加工や販売など様々な仕事の組み合わせで成り立っています。また生活や時代の変化にともない新たな製品も生まれています。これらを総合的にみて、常陸大宮市の生業を理解していきたいと考えています。
民俗部会 協力員
森戸 日咲子 (茨城県立歴史館 学芸員)
問い合わせ:文化スポーツ課 文化振興グループ
【電話】52-1111(内線343)
<この記事についてアンケートにご協力ください。>