■健康の社会的決定要因
笠間市立病院医師 前島拓矢(まえじまたくや)
皆さんは健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health/以下SDH)という言葉を知っていますか。SDHは、健康に影響する社会的な要因のことをいいます。健康には遺伝的要因や体質が最も影響していると思われがちですが、近年は、このSDHの存在が大きく注目されています。
皆さんやその周囲の方々の健康も、SDHの影響を受けているかもしれません。例えば、糖尿病を抱えている患者さんが2人いるとします。1人は健康的な食事にお金をかけ、ジム通いも始めました。もう1人は金銭的にも時間的にもあまり余裕がなく、通院も途切れがちで、最近の物価高でなかなかバランスの良い食事が取れていません。この2人を比較したら、明らかに最初の患者さんの血糖値の方が良くなっているでしょう。
こうした社会的な要因の違いが生じるのは、「努力が足りない」「いい職業に就けなかったから」「勉強をサボったから」といったように、本人の責任だとみなされがちですが、全てが本人の責任でしょうか。例えば、バブル期と就職氷河期の就職活動は全然状況が異なります。また、金銭的な理由で予備校に通うことができなかったとしたら、それは学生の努力が足りないとしてしまってよいのでしょうか。全てがその人個人の問題ではないはずなのです。
また他にも、孤独で他人とのつながりが薄いことや、学歴の違いなどもSDHとして考えられています。笠間市の皆さんで言えば、都市部に比較すると交通の便が悪く、運転ができない場合は病院通院のハードルが高い、買い物が難しいなどの困難さがあるかと思いますが、これもSDHです。もちろんデマンドタクシーなどの取り組みはありますが、1時間に10本も20本も電車が来るような東京とはさすがに比較になりません。
SDHの解決策は簡単に提示することができず、そして個別性が強く、一人一人異なる対応を考えなければなりません。そのため、病院だけではなく、市やNPOなどさまざまな人々との連携が必要になることもあります。笠間市立病院では、病気そのものの治療だけでなく、社会的な面の健康相談も受け付けていますので、気軽に相談していただき一緒に考えていきましょう。
問合せ:市立病院
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