■行方の香り
十一月十五日の午後。行方レシピコンテスト審査会の会場(麻生公民館研修室)に入ると、そこに漂っていた香りを感じ一つの言葉が頭に浮かんだ。
安寧。
ふわっと身体の緊張が緩んで、暖かい陽ざしがじわっと頬にあたって気持ちよく、誰かに無邪気に「あのね」って話しかけたくなるような心持ちになる(響きが安寧に似ているからかも)言葉だ。
今回は開催10回目を記念し、これまでの集大成としてレストランのように多種多様な料理を募集。主菜、副菜、汁物、デザートの四部門に、93のレシピがエントリーされたようだ。それらのうち、一次の書類審査を通過した20品目を実食審査するこの会場では、すでに何品もの料理がテーブル上に並んでいたのだった。
そうか…。ここに漂っているのは、「行方の香り」なんだ。100品目を超える行方市の農畜水産物から選んだ食材を使った料理たちの香が混ざっているのだから。
一品一品、大切に料理を味わいながら私は、安寧の二文字が頭に浮かんだ別のシーンを思い出した。最近めっきり、私の名前を呼び捨てにしてくれる人物が少なくなり、すぐに思い浮かぶのは、兄、叔父、そして同級生のうちの二人のみ。審査用の料理を味わっている今、このうちの誰かに名前を呼ばれたなら、「あのね、行方にはキストマトとか恋のつぼみっていうトマトもあるんだって。それと空心菜は、あさがお菜のほかにヨウサイ、エンサイ、ウンチェーバー、ウンチェーっていくつもの名前があるみたいよ」などと話しかけたくなるのだろう。
審査会ゆえ短時間に少しずつ味わった料理のどれも、コース料理として実際に食したいので「行方レストラン」のオープンを強く希望します。期間限定でも。
■小林光恵さん
行方市出身。つくば市二の宮在住。コンテストのレシピを、中川学園調理技術専門学校の先生方が、実食審査用にアイデアの再現に注力してくださったそうです。この場を借りて御礼申し上げます。
市公式ホームページ内で「行方帰省メシ」連載中。
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