■鹿島アントラーズアカデミー ヘッドオブコーチング
里内 猛
住友金属工業蹴球団でプレーし、1988年引退後、翌年から同部コーチに就任。JFA公認S級コーチを取得。2001年まで鹿島アントラーズのフィジカルコーチを務めた。2003年から日本代表チーム(ジーコジャパン)のフィジカルコーチとなり、2006年FIFAワールドカップドイツ大会にも帯同した。その後も各クラブチームの監督・コーチを務め、2017年に再度鹿島アントラーズのフィジカルコーチに就任。2020年からは、鹿島アントラーズアカデミーのヘッドオブコーチング兼ユースフィジカルアドバイザーとして、高校生以下世代の指導をしている。
◆育てるじゃなく、鍛える。
▽アントラーズのコーチを務めることへの想いは?
旧住友金属工業時代を含めれば、50年近くチームにお世話になって、鹿嶋市、鹿行地域は、自分を育ててくれたエリアです。アントラーズを通して基盤を築けたことへのありがたさを感じています。
2006年ワールドカップ、ジーコジャパンの経験でもそうですが、ジーコスピリットを代表チームに落とし込んでいく責任と誇りを持って仕事をしました。『献身・誠実・尊重』といった言葉の部分で、自分の行動を律するというか、アントラーズで学んだ気持ちを他のクラブ経験の中でも生かしていたし、選手たちへの接し方にも影響を及ぼすような、そんな自分の空気感を意識していました。
▽アカデミーコーチとして若い選手を育てる立場になったが?
アカデミーをサポートする立場になったのは還暦を過ぎてからだったので、孫を指導するぐらいの感覚でした。自分からこうしろと指導するよりも、何かあれば相談に乗る、サポートする立場で、アントラーズの良さを理解するように働きかける、刺激を与え続けていくようになりました。育成年代というのは、まだまだ子ども。人間的にもこれからだし、成長過程にあるので、優先するアクションや言葉は、プロ選手への指導とはやはり変わってきます。
▽「トップチームの主役を輩出する」ために意識して指導することは?
トップチームは、結果が最優先されます。優勝以外は何位になっても一緒だというメンタリティは、強烈にトップチームにも落とし込みされたでしょう。
アカデミーはトップチームを下から支える存在で、1人でも多くの優秀な選手を鍛えることが命題。私が伝えてきたのは、『育てるじゃなくて、鍛える』。鍛える要素の中には、さまざまな部分があって、精神的、身体的な部分はもちろんですし、技術的にも鍛えていく。アカデミーハウスでは、厳しい生活環境を経験させています。プロになれるのはほんの一握り。多くの選手は、一般社会に流れていくことになるので、社会常識や言動を身に付けられるよう指導しています。精神的なタフさを養うために、高校3年間を『千日行』の気持ちで取り組めと伝えています。みんなで共感し、乗り切れた経験を我々の方から作っていく必要があるのは、アカデミーの大切なところです。また、アントラーズを支えてきた有名選手たちがスタッフにいるので、選手たちにとって、これほどの生きた教材はないと思います。彼らが培ってきた選手目線の経験値は、大きな影響を与えています。
▽サッカーを始めたい、高いレベルに挑戦したい子どもたちに向けて
勇気を持ってトライしていくことが大切だと思います。よく選手にも言うのですが、今の子どもたちは分岐点において楽な方を選びがち。けれど人間が成長するためには、この分岐点での努力が必要。その積み重ねが成長につながっていきます。だから2つの選択肢があったら、時間がかかるかもしれないけど、難しい方を選ぶようにしろと常々伝えています。少し痛みを伴うぐらいが、精神的・肉体的に成長できる。鹿嶋市は、サッカー熱も高い。我々もそういう勇気ある子どもや、アクションを起こせる子どもを1人でも多く輩出できればと考えています。
<この記事についてアンケートにご協力ください。>