【特集】SWITCH!(スイッチ)対馬(2)

4／30

■協力しあうことで、新しい価値が生まれている
対馬市では、これまで海の厄介者として扱ってきた魚に新しい価値が生まれ、それを拡げることで、新たな価値が生まれないかと考え、色々な人たちの協力を受けながら、捕獲・流通・加工・販売の流れを作る取り組みを支援する試みをスタートさせました。

〔獲る〕
◇市内各地にある定置網には、イスズミやアイゴが大量に入ることがあります。それらは価値がないのでほとんどが海に戻され、漁の邪魔者になっていました。

我々、定置網漁業者にとっては、すごく厄介な魚です。1度に10トン余りのアイゴが入っていたこともあります。死んでしまうと海の汚染にもなるので、網ですくって海に返すのですが、本来の作業時間の数倍の時間がかかります。他の魚を傷つけ商品価値を落とされてしまうことも困るのですが、このことによって、他の作業ができなくなってしまいますし、何より働いている人たちのモチベーションが下がってしまいます。
全ての魚が、消費者の元へと向かうことが、我々にとって一番の喜びですから、このような取り組みが軌道に乗ってくれたら良いと思い参加しています。いつかこの取り組みで利益がたくさん出て、周りから「お前らだけ儲かってずるいぞ!」と取りあいになったら良いですね。
　⇓
〔運ぶ〕
◇獲れた魚は、加工するために運ぶ必要がありますが、専用のトラックを確保するとコストが掛かり、価値のない魚は運ぶことができません。

対馬で水揚げされた魚を島外の市場に運ぶために、島中にトラックを走らせていますが、一緒にイスズミやアイゴを運び、加工場のある美津島町女護島に寄って降ろすことで、効率化と低コスト化を図っています。私たちも含め、島内3つの運送会社が取り組んでいます。
漁師さんたちが獲った魚の価値を下げずに運ぶということが私たちのミッションですから、手間が増えるこの取り組みに、ドライバーからは不満の声もありました。しかし、おいしく料理されたものを食べてみたら…驚きとともに、考え方にも変化があったようです。何より、対馬を元気にするための取り組みに参加できていることに誇りを感じています。
　⇓
〔加える〕
◇イスズミやアイゴは、内臓がのこったまま保管すると、身が臭くなってしまい商品価値が下がります。また、アイゴは毒のあるとげがあり、取り扱いが難しいため、それらを取り除き出荷されます。

今回のプロジェクトには、所有する冷凍庫に、加工処理が追いつかないイスズミやアイゴを保管するという形で協力しています。島外に対馬の魚を送り出す仕事をしているので、以前に「適切に処理すれば、安価で美味しい魚」と声をかけ、島外の業者さんに送ったことがありました。最初はタダ同然の価格に喜んでもらっていたのですが、徐々に送る量が減り、いつしか立ち消えになってしまったという苦い経験があります。今回は、加工して出荷することで、送る先が使いやすく、なおかつ対馬側の「この現状をどうにかしたい」という思いを、丁寧な加工に乗せることによって、明確なメッセージを島外に発信することができます。この取り組みがうまく回り始めた要因がここにもあると感じています。

対馬の海を何とかしたいという、海に関わる市民の皆さんの熱意を受け、この取り組みはスタートしました。漁業者さんだけでなく、魚を運んだり、加工したり、調理したりする皆さんがそれぞれ持つ強みをうまく組み合わせることで「海の厄介者」が「海のウマイモノ」に変化をとげ、周囲を巻き込みながら少しずつ動き出しています。このような取り組みが、対馬を動かすエンジンになるように、これからも市民の皆さんの思いや願いを形にできるよう、サポートしていきます。
　⇓
〔食す〕
これまで食べられてこなかった魚を、どのように食べてもらうのか。今、おいしく食べられることと同じように、どんなものを食べているのかを知ることに価値を見出す人が増えています。

田尾さん：高級店を利用する人は、今まで食べたことの無い食材や、物語をもつ食材ということに価値を見出し、料理を楽しみます。多くの人に、食を通して、環境や地域課題を解決するための手助けになることを伝えていくことができれば、もっともっとこの取り組みの価値が上がると思います。

眞貝さん：アイゴ特有の臭みを消す処理など行う一方、魚を食べているという感覚は残したいと思い、フィッシュカツという形になりました。豊富な魚種が目の前にある対馬の方からすれば、食べるという選択肢に入っていない魚たちだったかもしれませんが、島の外の人間からすれば、優れた食材だと思います。