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長崎県立大学シーボルト校研究紹介Vol.31

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長崎県長与町

長崎県立大学
長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。

■翻訳の不思議
国際社会学部国際社会学科
山田健太郎准教授
山田研究室では、ことばと文化とイメージについて研究をしています。アメリカ映画のスーパーヒーローと黒人像の問題から日本のアニメにおける役割語、さらにはオネエことばや方言と翻訳など、学生たちが関心をもったテーマを選んで探求をしています。今回はその中から翻訳研究について少し紹介します。
さて、翻訳というのはどのようなことだと思いますか?多くの人は、たとえば日本語の「犬」を英語の“dog”にするように、ひとつの言語のことばを、もうひとつの言語で対応することばに置き換えることと考えているのではないでしょうか。しかしながら、「首を振る」を英語にしようとすると気がつくように、ひとつのことばに別の言語で対応させることばは、ひとつではすまないのが普通です。翻訳はけっこう複雑です。
翻訳の複雑さを示すひとつの例として、先日ChatGPTで「梅干し」の翻訳(英訳)を試みた結果を紹介しましょう。「梅干し」を英語に翻訳するとどのようになるかと質問してみたところ、最初のChatGPTからの回答は“umeboshi”でした。多くの人がこの単語を使っているとのことです。しかし、これでは直接梅干しを知らない人にとっては何のことかわからないのではないか、と尋ねたところ、“pickled plums”に変えるのがいいと思うという回答でした。実際この表現は日本文化紹介の本でよく見かけます。しかしながら、このpickleはヴィネガー(もしくは塩水)に漬けた保存方法のことなので、実際の梅干しとは少し異なります。その点をChatGPTに指摘すると、今度は“dried salted plums”を提案するとの回答でした。
このように、「梅干し」の翻訳もAIですれば簡単にすむわけではなく、考え方によって選択するべき表現がたくさんあります。2つの異なる文化の間で表現を選ぶわけです。こうした調整の基本的な考え方のひとつに「異化翻訳/同化翻訳」というものがあります。翻訳の読み手の文化を中心に考えるのが同化翻訳、原典の文化に近い表現を選ぶのが異化翻訳です。上の例のumeboshiは典型的な異化翻訳です(音訳というものになります)。一方、『千と千尋の神隠し』が英訳でSpirited Awayとなったのは、一神教の人たちが多い社会で違和感なく受け入れてもらうということに重点を置いた「同化翻訳」の一例といえるでしょう。では、『鬼滅の刃』はなぜDemon Slayerとなったのでしょう。皆さんもぜひ考えてみてください。

原典の文化
異化翻訳
読んで違和感を感じる(翻訳であることを意識する)
umeboshi
Sen-to-Chihiro-no-kamikakushi

翻訳の調整

目標言語の文化
同化翻訳
読んで違和感を感じない
(翻訳であることを意識しない)
pickled plum
Spirited Away

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