文字サイズ
自治体の皆さまへ

長崎県立大学 シーボルト校研究紹介 Vol.35

16/44

長崎県長与町

長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。
すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。

■耐熱性カビの基礎研究
看護栄養学部 栄養健康学科
松澤 哲宏 准教授

一般的なカビ、酵母は70℃、10分の加熱処理で死滅すると考えられており、加熱工程がある加工食品では原材料に由来するカビ・酵母は殺菌され、施設内の製造環境からの二次汚染さえ徹底して制御すれば事故は起こらないとされています。その一方で、75℃、30分の加熱で生存する耐熱性カビというカビが存在します(図1)。
耐熱性カビによる食品変敗事故の歴史は古く、1930年代にイギリスで発生した果実の缶詰・瓶詰製品による事故が最初の報告となっています。日本国内でも1980年以降、飲料、ゼリー、ベビーフード、乳製品、ゆでめん、たれ類での変敗事故が報告されています。また、汚染事故の原因となる原料はブドウ果汁、リンゴ果汁、パイナップル果汁、ベリー類、トマトペースト、柑橘濃縮果汁、レモン濃縮果汁、茶葉、穀類などの農作物であることが明らかになっています。
耐熱性カビの耐熱性は「ある一定温度で微生物を加熱したとき、生菌数を1/10に減少させるために必要な時間」であるD値を基準にしています。D値を測定するために耐熱性試験を行うのですが、耐熱性カビを何の液体(加熱媒体)で加熱するかによってD値は大きく異なります。また、ブドウ果汁などの果汁も加熱媒体として用いられますが、これらの果汁は作るたびに成分が変わってしまうため、安定した試験ができないという欠点があります。安定した耐熱性試験を行うためには、加熱媒体の組成が分かる人工加熱媒体が必要ですが、現在、主に用いられている酒石酸グルコース溶液はブドウ果汁に比べると活性化率やD値が明らかに低くなってしまい、実際の果汁との差が問題となっています(図2)。
酒石酸とグルコースはブドウ果汁の主成分であり、ブドウ果汁にはリンゴ酸、クエン酸、酢酸といった様々な有機酸が含まれています。私の研究室では、酒石酸グルコース溶液にこれらの有機酸を加え、ブドウ果汁と同等の人工加熱媒体の開発について研究を行っています。

図1:耐熱性カビAspergillus fischeriの電子顕微鏡写真
(写真は本紙をご覧ください。)

図2:加熱媒体による活性化率の差

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU