長与町に立地する長崎県立大学シーボルト校。すぐ近くの大学でどのような研究が行われているかをシリーズで紹介していきます。
◆私たちに身近な精神疾患と子育て
看護栄養学部 看護学科
堂下 陽子 准教授
皆さんは「精神疾患」という言葉からどのようなことを想像されるでしょうか?私たちは生きていく中で、様々な困難に直面しながらも、自分自身の力、家族や周囲の人のサポートで困難を乗り越えて生活しています。しかし、様々な困難が重なってしまうことで、誰でも精神疾患を患う可能性はあります。実際、精神疾患の患者数は年々増加し、令和2年の患者数は614万人と5大疾病1)の中で最も多くなっています。
私の研究室では、子育てをしている精神疾患をもつ親やその子どもへの支援についての研究をしています。「子育て」は、健康な親でも初めての経験に戸惑い、子どもの成長の節目節目に喜びと同時に心配事や困りごとにも向きあっていくことになります。また親は子どもを通して、多くの人とつながりながら、子どもと一緒に成長していきます。しかし、様々な困難が重なり、親の精神状態が不安定であると、多くの人とつながることが難しい場合があり、子育てがさらに困難になります。
これまで行った、子育てをしている精神疾患のある母親に関する調査では、母親はフォーマルやインフォーマルな安心できる人からの支援を通して、自分自身の病状の安定を意識し、困りごとを相談し助けを求めることができるようになっていました。そして、母親は子どもの気持ちに沿った子どもへの関わり方が向上し、子どもの生活習慣の確立や円滑な学校生活へのサポートができるようになっていました(図・表)。
日本では、平成29年に「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」2)の構築を目指すことが理念として示されています。病気や障害をもつ人が暮らしやすい地域は、健康な人にとっても暮らしやすい場所です。今後も精神疾患をもつ親とその子どもが住み慣れた地域で安心して生活できるための支援について研究を続けていきます。
1)5大疾病:地域医療の基本方針となる医療計画で重点的に取り組むべき課題とされる疾患。精神疾患の他、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病とされている。
2)厚生労働省:これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書 参考資料、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(【URL】https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000ShakaiengokyokushougaihokenfukushibuKikakuka/0000154190.pdf)(参照2024.9.27)
○表 精神疾患をもちながら子育てをする母親の成長
○図 精神疾患をもちながら子育てをする母親の成長の関係
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