【国見町出身の渕上兄弟】
■雲仙香るクラフトビール目指す
遊休農地を開拓 ベルガモットを栽培
雲仙市瑞穂町上横田地区に広がるベルガモット畑。長年、耕作放棄地だった段々畑が生まれ変わった。手掛けたのは、国見町出身の渕上桂樹さん、敏秀さん兄弟。2022年から植栽し、実ったベルガモットを使ってクラフトビールを完成させた。桂樹さんが経営する長崎市内のバーで提供しており、2人は「雲仙市生まれの香りを多くの人に楽しんでほしい」と意気込む。
「農業が盛んな雲仙市に、新たな価値を見いだしたい」。そう思ったのはコロナ禍にあえぐ2020年。幸い、近くに畑はある。2人はハーブや果物の栽培を始めた。雲仙に適した果実を模索する中、爽やかな香りに惹かれたのがイタリア原産のベルガモット。ミカン科の常緑低木樹で国内産は珍しく、アロマのような香りの良さが特徴で、果肉も果皮も余すところなく使える。産地化を目指し、農地を探す。21年、瑞穂町に耕作放棄地約4ヘクタールを借りて、本格的な開墾が始まった。
主に農地管理は敏秀さんが担当する。地元住民やボランティアにも協力してもらい、これまでに約470本を植栽した。23年秋、取れた実を利用したクラフトビールの第一弾が完成。お披露目会場は爽やかな香りに包まれた。各地の商談会などにも出店し、雲仙市の新たな名産として注目されている。
現在、ライムやヘーゼルナッツの栽培にも挑戦中。香り付けのほか、飾りやおつまみなどにも使える万能選手。これまで輸入に頼っていた品種が雲仙市で楽しめることから、噂を聞きつけたバイヤーが県内外から視察に訪れる。2人は「ベルガモットが持つ可能性は、雲仙市の農業が持っている可能性。もっと広げて、一大産地を目指したい」と笑顔を見せた。
【小浜温泉ワイナリー】
■帰って来たソムリエ
11月9日夜、小浜温泉街の一角が賑わいとブドウの香りに包まれた。小浜温泉ワイナリーが手掛ける今年の「長崎ヌーヴォー」完成を祝い、ヌーヴォー祭りが開かれ、住民や観光客がワインと地元食材に舌鼓を打った。
小浜温泉ワイナリーは、イタリアンシェフでシニアソムリエの資格を持つ川島貴宏さんが2020年開業。小浜町で生まれ育った川島さんは、料理人を目指して大阪の専門学校へ入学。イタリアンレストランに就職し、自然とワインの知識も身に付いた。
イタリア修行なども経験したが、「いつか地元に戻って自分の店を持ちたい」という夢は大きくなるばかり。古里で増えつつあった耕作放棄地も気掛かりだった。2020年11月、栽培から提供までを自ら行う同店を開業した。
現在、雲仙市内の複数の畑計1ヘクタールほどでブドウを栽培。小浜町内のワイナリーで醸造する。選果や仕込み作業には市内外からボランティアも参加。おしゃべりに花を咲かせながら手も動かす。協力してくれた人たちへの感謝の思いも込めて、川島さんがじっくり醸造する。雲仙市の食材に合わせてフルーティーに仕上げたという小浜生まれのワイン。地元へ込めた恩返しの分、味わい深くなる。
○DATA
Shop and Restaurant
雲仙市小浜町北本町862
【電話】090-6964-5748
営業時間:午後6時~午前0時、不定休
【あい娘酒造】
■娘を育てるように愛情込めて
1873年、島原市で蔵元を創業し、雲仙市愛野町に移って80年以上の歴史を持つ。赤レンガの煙突が目印。酒造名には「かわいい娘を育てるように造ったお酒が、多くの人に親しまれるように」との願いが込められている。
こしき釡での麹づくりや袋搾りなど、昔ながらの製法にこだわる。少量生産だが、雲仙岳からの伏流水で仕込まれるお酒は、爽やかな香りと深いコクが特徴。吟醸酒や純米酒、初搾り、季節限定の酒も取り扱うなど多様な品種も人気を集めている。
5代目の山﨑貴彦さんは昨年、体調を崩して入院し、一時は命の危険もあったが、今年3月に退院。リハビリは続くが家族の支えもあり、今冬からの仕込みを再開した。愛娘の真衣さんも商談会などでサポートする。家族、地元からの大きな愛に支えられながら、今日も赤レンガの煙突からは香り豊かな蒸気が立ち上る。
○DATA
雲仙市愛野町甲1378
【電話】0957-36-0025
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